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「楽しくないのに、なんでやらないといけないんだろう」伊藤大海が明かしたWBC後の“燃え尽き症候群”…折れかけた心を支えた元チームメートの言葉〈復活秘話〉
text by
中田愛沙美(道新スポーツ)Asami Nakata
photograph byNanae Suzuki
posted2023/06/28 11:03
「燃え尽き症候群」を乗り越えた伊藤大海
何とか立て直そうと、必死にもがいた。3度目の先発は、4月19日のロッテ戦。北海道出身の伊藤にとって、待ちに待った新本拠地・エスコンフィールド北海道での登板だった。序盤に4点を失い、3点ビハインドとなった6回。普段は歩いて行くマウンドへ、自らを奮い立たせるため、全力疾走して向かった。
ショックで立ち上がれず…
初心に返ってみたが、あの感情はぬぐい去れなかった。「悔しいのは悔しいんですけど、本当に悔しいのとまた違うというか…。魂を燃やし切れていない」。試合後、投球動画を見返すこともしなくなった。
今季4度目の先発登板は、4月25日のオリックス戦(エスコンフィールド北海道)。どん底を味わったことが、這い上がるきっかけとなった。勝利投手の権利が懸かった1点リードの5回。志願して上がったマウンドで、無死一塁から相手の4番・森友哉に逆転の2ランを浴びた。4回0/3イニングを投げて6失点降板。ベンチに戻った伊藤は、ショックのあまり、椅子の前でしゃがみ込んだまま立ち上がれなかった。
試合後、新庄剛志監督は「次、こういう投球だったら考えますよ。仕事なので。プロ野球なので」と、奮起を促すため、厳しい言葉を投げかけた。
「明日、直接話があるから」
絶望の淵に立たされたとき、そっと手を差し伸べてくれる仲間がいた。
失意のまま自宅に戻ると、その日の対戦相手であるオリックスの捕手で昨年までバッテリーを組んでいた石川亮から連絡が入っていた。
「明日、直接話があるから」
昨年11月に石川亮のトレードが決まった際には「ショックですね。失恋した気分です」と話したほどの仲。面倒見が良い2歳年上の先輩は、片付けが苦手な右腕の部屋を掃除してくれたこともあったほどだ。
翌日のファイターズの練習中。一塁側ベンチ前で元女房役は身振り手振りを交えて、投球のヒントをくれた。わずかな時間だったが、伊藤に笑顔が戻っていた。