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「落合博満は練習嫌い」のウソ…当時チームメイトが語る“本当の落合論”「4割なんて打てるよ、と」「オチさんの目的は1つでした」
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph byKYODO
posted2023/06/16 11:01
ロッテ時代の落合博満。当時チームメイトが語る“天才の実像”とは
やはり天才だった…助言に「あっそう」→打つ
結果が全ての世界において、練習量を誇っても意味がない。引退後、落合は〈練習はするが、人前でやることは少ない。(中略)厳しいプロの世界で練習をせずに一流になった者などいない〉(1998年12月発行/著書『野球人』)と語っている。稀代の大打者は不振になると、水上に助言を求める時もあった。
「室内練習場で『おまえ、どう思う?』と聞かれて『ちょっと右肩が下がってるんじゃないですか』と答えると、『あっそう』とバッターボックスに戻って直し始める。そして、次の試合で打つんですよ。自分より年下で、たいして打てない選手の意見を素直に受け入れる。野球に対して真摯な求道者でした」
84年に就任した稲尾和久監督も、試合終了後の川崎球場のロッカーに1人残って練習する落合を目撃している。
〈ユニホーム姿の落合がいて、例の神主打法の構えを大鏡の前で、何度も繰り返している。〉(2002年2月発行/著書『神様、仏様、稲尾様』)
落合はトップの位置でバットを止め、スイングはしなかった。疑問に感じた稲尾は思わず声を掛けた。
〈「おまえ、せっかくやるんだったら振れよ。振ればパワーもつくだろう」というと落合は「いえ、振る必要はないんです。これさえ合えば打てるんです」。
なんとも不思議だが、天才とはそうしたものか。〉(前掲書)
落合は人知れず汗を流し、野球を探究していた。水上はそんな天才の打撃を吸収しようと、神主打法に挑戦した過去がある。
「落合さんに教えてもらい、練習で試したら飛距離が出たんです。こりゃいいじゃんと思って、試合でも使ってみた。でも、得意なピッチャーなのに、全くタイミングが取れない。2打席でやめました。バットが出てこないんです。だから、落合さんはトップの位置まで持っていくだけの練習をしていたのかもしれないですね」
オープン戦で「1球も振らない」落合
85年、落合は3割6分7厘、52本塁打、146打点で2度目の三冠王に輝くと、思いのままにオフを満喫した。メディアから引っ張りだこになり、大晦日には日本レコード大賞のプレゼンターとして中森明菜に大賞の目録を贈呈。年が明け、チームが川崎球場で合同自主トレを開始する前日、信子夫人とともに4泊5日のハワイ旅行へ出発。帰国翌日には岩手で初めての講演会を開き、オフだけで3000万円を稼いだと伝えられていた。