「今の考えでそこからしっかりやれば、（箱根駅伝を）走れる気がするんです」

　その時の苦い経験が今に活きている。

「1、2年時は、授業とかもめちゃめちゃあって、すごくハードだったんですけど、上級生になってからは授業数も減って、けっこう自由な時間が多かったんです。その時、もっと陸上に向き合えたんじゃないかと思っていて。今は、仕事をしながらトレイルをしていて大学1年の時のような忙しい状況なんですが、『時間があった時にやらなかったから箱根を走れなかった』と思うので、限られた時間で仕事も練習も本気でやろうという気持ちでいます」

現在は動画編集と「RETO RUNNING CLUB」のコーチを仕事としている田村　©Tatsuya Matsuzaki

『サラリーマン金太郎』に憧れて…

　卒業後、田村は現役を引退し、一般企業に就職することを決めた。実業団から声がかかっていたが、走る道には進まなかった。

サラリーマン時代　写真は本人提供

「社会人になって実業団で陸上をやって目指すところが世界陸上や五輪というところになるのを考えた時、自分はそのレベルではできないと思ったんです。それだったら陸上をやめて普通の社会人になろうと。もうひとつは、『サラリーマン金太郎』の影響ですね（笑）。『己の損得だけじゃなく、社会のために貢献しよう』というのをサラリーマン金太郎が言っていて、それにちょっと憧れてサラリーマンをやりたいと思いました」

　2017年に青学大を卒業し、田村は社会人になって陸上から離れた。営業職で日々忙しく、走る意識はほとんどなかった。それから2年後、先輩の神野大地と話をしていると、「YouTubeの動画編集をしてくれる人いないか」と聞かれた。

陸上からは離れていたが、神野との交流は続いていた田村　写真は本人提供

神野大地のマネジメント会社に転職

「その時、僕がそれをやりたいと思ったんです。映画が好きですし、そのノリで出来るかなと思って、神野さんに『やらせてください』と言いました。それから1週間後、会社をやめました。『会社やめてきました』って社長の聖也さんに伝えたら、『えっ！　どういうこと？』って言われて（苦笑）。神野さんから聞いていなかったようで、もう半ば強引に会社に入れてもらったんです」

　2019年12月、田村はサラリーマン金太郎を諦めて、動画編集が主ながら再び走る世界に戻ってきた。これが、トレイルという新たな道をいく出発点になった。

＜続く＞