「おおらかで明るいThe・高知人という印象の浜田さんは神宮球場の舞台に立てることが魅力なんだ、ということをしきりにおっしゃっていました。高校1年生で、しかもテニスコート3面ぶんのグラウンドでしか練習できない僕にとっては、プロも使うようなグラウンドで、 大きな歓声のなか、打席に立てて、走って、投げられるってすごく憧れなんですよ」

　佐藤にとっての東大野球部のイメージは、浜田との出会いで一変した。

「メガネをかけたガリ勉たちが一生懸命バットを振っていると勝手に想像していたんですけど、いざ本当の東大野球部なるものを知ったときに、ああ、全然違うじゃんって思ったんです。本気で野球をしてて、しかも、甲子園経験者を本気で倒そうとしている。そういう姿勢に共感して、自分も東大に行きたくなりました」

写真は京華中時代の佐藤

「へへっ」「東大なんていけるわけねえじゃん」

　佐藤が東大を目標とした高校1年の夏。当時京華から東大入りしたOBはゼロ（佐藤が高校3年時に浪人を経たOBが1人合格）であり、志望校を東大に据える佐藤は相当珍しい存在だった。

「先生も生徒も、僕のことは身の程知らずとしか見ない。東大に行くって言ったら、へへっと鼻で笑うような先生も多かったし、同級生からも『東大なんていけるわけねえじゃん、俺ら京華なんだから』とバカにされましたね」

　その中で、佐藤を一貫して応援してくれたのは担任であり、野球部の顧問だった奈良潤一だ。

「奈良先生だけは真剣に受け止めてくれて、前向きになれるような言葉を常にかけてくれました。『言ったからには、絶対に目標はぶらすな。でも今の成績のままではいけないぞ』と。その言葉通り、当時の模試では偏差値55ほどで、ばっちりE判定でした」

「高校名を隠して」東大特進コースに通った

　信頼する担任の言葉と模試の結果に触発されてエンジンがかかるのが受験ドラマの王道だが、佐藤の東大志望は、しばらくの間、口だけだった。

「高2の秋まで1ミリも模試の成績は上がりませんでした。通学時に英単語を読み始めるようにはなったけど、一日に何時間勉強しようと計画を立てることもなかったし、部活から帰宅後すぐ寝てしまうことも多々ありました。それでも学年では常に300人中5位以内。勉強のために部活を辞める人もいるなかで、学年トップ層に入っていましたから、天狗になってましたし、塾に行く気も起きませんでした」

　本格的に東大受験へ向き合うきっかけとなったのは、高2の秋、腰のヘルニアを患い部活に参加できなくなったこと、そしていつぞやの東大野球部の練習会で浜田からもらった資料を見つけたことだ。

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