もっとも、あまり先走るべきではないのも事実だ。新陳代謝の激しいアメリカのスポーツ界での状況は瞬く間に変わり得る。他ならぬ渡邊自身、ほんの1年前にはラプターズの主力といえる立場だったのが、コロナ感染やチームの陣容変化ですぐに出番を失ったのはまだ記憶に新しい。ハムストリングに不安を抱える渡邊のケガやネッツの戦力補強は今季もいつでも起こり得ることだけに、1年契約の背番号18が常に厳しい立場にいることに変わりはない。

　前述通り、渡邊は無保証契約でスタートを切ったが、1月10日までに解雇されなければ今季の契約は保証される。とはいえ、これで役割や立場が安泰になるわけではなく、保証されるのはあくまで今季のサラリーのみ。約197万ドルという渡邊の年俸はネッツの負担になるものではないが、戦力外の危険がなくなったわけではない。渡邊自身の言葉を借りれば、“崖っぷち”のサバイバルロードはまだまだ続いていく。

　聡明な渡邊はもちろんそんな現実を十分に認識している。NBAでもベテランと呼び得る5年目を迎え、「いろんな選手がカットされるのを散々目の前で見てきた」という28歳が危機感を忘れることはない。特に優勝を目指すチームで生き残りを続けるために、さらなる向上が必要なことももちろん承知の上だ。

「まだヤニスとのマッチアップを任されていない」

「僕はもっと成長しなければいけない。（12月23日の）ミルウォーキー・バックス戦でそう思いました。マッチアップのこともありましたけど、バックスは4番（パワーフォワード）がヤニス・アデトクンボ 、5番（センター）がブルック・ロペスだったため、クロージングでは起用されませんでした。僕も信頼を得て来ているとは思いますが、ヤニスとのマッチアップを任されるまでではないですよね。あの試合の後、もっと上手くなりたい、もっとステップアップしなければいけないと感じました。本気で優勝を狙うチームに対し、どれだけ存在感を出せるかというのが大事になってくると思います」

　“ファイナル進出以外はすべて失敗”のネッツでプレーイングタイムを確保していくためには、現実的にヤニス、アル・ホーフォード、ジェイソン・テイタム （ともにボストン・セルティックス）、エバン・モーブリー（クリーブランド・キャバリアーズ）といった本格派のフォワード選手たちと対峙していかなければならない。大変なことだが、こういった名前を見ていくだけで夢も広がる。そして、これまで様々な逆境を乗り越え、成長してきた渡邊なら、そんな難しい作業も不可能だとは思えない。

現地時間1月4日ブルズ戦に敗れ、連勝が「12」でストップしたネッツ。この日、渡邊は途中出場したが、ファウルトラブルに苦しみ1得点にとどまった　©︎Getty Images

　“変化の1年”を終え、迎えた2023年は渡邊にとって“収穫の1年”になるのかどうか。今季を通じて漂い続けるスリリングな予感は消えない。ジェットコースターに乗っているようにアップ＆ダウンの激しい渡邊のNBAキャリアは、これから最も激しく、同時に最も楽しみな時間を迎えようとしているのだろう。