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7年前の戦力外通告、DeNAドラ2ピッチャーの今…“転職活動”をして、社会人野球はどんな毎日?「最初は経理部配属で…今は駅員ですよ」
text by
鼠入昌史Masashi Soiri
photograph byJIJI PRESS
posted2022/12/28 11:21
横浜DeNA時代の加賀美希昇さん。2010年ドラフト2位でDeNA入り、通算5勝。2015年秋に戦力外通告を受け、JR西日本に入社
選手にとっての社会人野球の魅力のひとつは、“安定”であることは紛れもない事実だ。仕事をしながらという環境はプロ野球の世界とは雲泥の差だが、引退後もそのまま社員として働き続けることができる。将来を含めた生活の心配をせず、野球に打ち込める環境なのである。
ただ、加賀美さんは生まれも育ちも関東地方。JR西日本野球部が拠点を置く広島には、縁もゆかりもなかった。
「大学時代から練習試合とかもしていたので、社会人のレベルの高さは知っていました。ただ、こっちのほうは縁もないので、JR西日本が強いかどうかも知らない。ただ、入ったときにはまだ若いチームで、年齢的にも僕が一番上。だから、これから強くなっていくチームなのかなと思いました」
最初は経理部配属だった「簿記の資格も取りました」
いくらプロの経験者といえども、“仕事をしながら野球をする”ことに例外はない。最初に加賀美さんが配属されたのは経理だった。
「実は数字とか、もともとちょっと得意なんです。会社では簿記の練習もさせてくれて資格を取ることもできた。当時の課長もすごいかわいがってくれまして、応援にも来てくれて。それはありがたいですよね」
2016年には日本選手権の2回戦で、ノーヒットノーランの快挙も達成。相手は奇しくも同じ“JR”のJR東日本東北だった。
「ノーヒットノーランのときも、職場に戻ったらいろいろ声をかけてくれて。そういうのは社会人ならではだし、うれしいこと。いまは徳山駅で働いているのですが、駅の人たちもみんな応援してくれているんですよ。午前中で勤務を切り上げて練習に行くときも、『頑張れよ』って言ってもらえますし。野球をしているだけではわからないことを知ることができるのは、良かったかなと思いますね」
「ずっと野球だけじゃないんですよね」
加賀美さんはJR西日本に入社してすでに7年。ベテランとして、若い選手の手本にもなる立場だ。
「あくまで選手なので成績を残すことがいちばんですけど、その中でも他の選手から聞きやすい雰囲気は意識しています。コーチではないので一方的に教えるようなことはしないですけど、気楽に聞いてもらえれば。そういう環境をつくっていきたいと思っています」
仕事と野球の“二足のわらじ”にもすっかり慣れた。午前中、徳山駅で改札業務などに従事すると、午後の練習に向けて新幹線で広島に戻る。その移動時間も、貴重な時間になっているという。