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「クロマティ見てる?」「守備はド素人だったのに…」巨人ウォーカー、運転手も工場バイトもやった苦労人がまるで“プロ野球の桜木花道”な話
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph bySankei Shimbun
posted2022/12/10 17:02
巨人のアダム・ウォーカー。トレードマークはドレッドヘアと20種類以上のヘアバンド。メジャー経験のない31歳の元・独立リーガーはまるで“プロ野球界の桜木花道”である
桜木花道とウォーカーに共通する、底知れぬ才能と試合の中でも上達しているかのような成長の早さ。選手が壁を越える、ブレークスルーする瞬間をリアルタイムで追う喜び。それはあらゆるエンターテインメントにおいて、観客を熱狂させる重要な要素でもある。ずっと追い続けたアイツがついにやってくれたぞ。ファンは、その瞬間だけ、もうひとつの“誰かの人生”を生きるのだ。ちなみにスラムダンク作者の井上雄彦は連載時を振り返り、こんな言葉を残している。
「この漫画を描いていたのって、23才から29才までなんですけど、すごく下手くそなところから始めて、毎週描いているうちにうまくなっていった。その成長の過程が完全に漫画に出ている。(中略)こんな顔も、こんなポーズも描けるようになった!とできることが増えていく一方なんですよね」(『創刊50周年記念 週刊少年ジャンプ展VOL.2 公式図録』より)
当時の読者は、桜木花道の覚醒だけでなく、無名の若手漫画家だった井上が時代を代表する作家へと進化していく過程も少年ジャンプを通して目撃した。東京ドームの巨人ファンが、ウォーカーの成長ストーリーを皆でワリカンしたように、だ。皮肉にも、そういうグラウンド上の人間ドラマは、いくら大金を積んでも買えやしない。
今オフの巨人はお得意のFA補強がない? いや、2年目のアダム・ウォーカーの恐るべき成長こそ、最大の補強なのである。今度は嘘じゃないっす。
See you baseball freak……
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