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28歳で現役引退→看護師に転身…なでしこトップ選手が“生死に関わる仕事”を選んだ理由「サッカー選手だったことを知る人はほとんどいない」
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byL)AFLO SPORT
posted2022/07/22 17:00
なでしこリーグ1部・ノジマステラ神奈川相模原でキャプテンマークを巻いてプレーした尾山沙希さん(32歳)。セカンドキャリアとして看護師を選んだ
28歳での新たなチャレンジとなった看護学校での3年間。最大の難関は国家試験と思いきや、それ以上に大変だったのが、定期的に行われる単位認定試験だったと苦笑いする。
「そこで単位が取れないと留年になってしまうんです。私と同じ年に40人入学したんですが、同じ年に卒業できたのは34~35人くらいでした」
3年時は新型コロナウイルスの影響で実際の患者と接する実習をほとんど受けることができず、校内実習に切り替わった。それでも実際に病院で実施することが出来た3週間に及ぶ看護実習では、食事や清潔の援助などを通して患者との向き合い方を学んだという。
「ちょうど実習がスタートする頃に受け持ちになった患者さんは、いろいろなことがあって落ち込んでいる時期で、なかなか受け入れていただけなかったんですね。逆の立場で考えたら、その患者さんの気持ちはよく理解できるんですが、当時はどうしたらいいかわからず気持ち的につらかったですね。どれだけ相手の立場に立って考えているつもりでも、完璧にそうはできないということを痛感しました。それは看護師になった今も実感する部分です」
1年目から目の当たりにしたコロナ病棟の過酷さ
地域医療を担う奈良県総合医療センターに勤めて1年3カ月が経った。
「まだまだ慣れないことばかりで毎日勉強です」という尾山さん。何から何まで初めて、しかもコロナ禍でのスタートで不安を抱えながらも、命と向き合う過酷な現場に飛び込んだ先で常に患者には笑顔を向けようと奮闘している。
未だコロナ禍の中、医療現場ではその対応に追われ、我々が想像する以上に体力的に、そして精神的にも大きな負担がかかっているだろう。新人看護師の彼女はどんな1年を過ごしてきたのだろうか。
「新人はコロナ病棟には入れないので、ずっと外回りの仕事をしてきました。中に入っている看護師は防護服を着用しているので簡単に外に出られません。ちょっとした物品を取ることもできないのでそれをサポートしたりしていました」
尾山さんは主に患者さんの家族の対応を担当。コロナ禍で患者の家族がどのような思いを抱えているか、面会制限下の家族看護の理解に努めている。
「コロナ禍では家族の方も病室の中には入れないので、タブレットをつなげてリモート面会をしているんです。患者さんのご家族から『どんな病状ですか?』と電話をいただいたり、病院に来られていろいろ聞かれることも多いのですが、看護師からは病状を説明することはできません。だからこそ、少しでも心配する気持ちを和らげられるような言葉を考えながら伝えることを心懸けていました」