なでしこジャパンPRESSBACK NUMBER
28歳で現役引退→看護師に転身…なでしこトップ選手が“生死に関わる仕事”を選んだ理由「サッカー選手だったことを知る人はほとんどいない」
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byL)AFLO SPORT
posted2022/07/22 17:00
なでしこリーグ1部・ノジマステラ神奈川相模原でキャプテンマークを巻いてプレーした尾山沙希さん(32歳)。セカンドキャリアとして看護師を選んだ
高校時代を過ごしたFCヴィトーリアには、2つ年上にW杯優勝に貢献した阪口夢穂らがいる。引退試合となった17年全日本女子サッカー選手権決勝では、「私の中では神様」とリスペクトする先輩との対戦が実現し、幸せを噛みしめながらピッチに立ったと懐かしそうに微笑む。
「決勝で戦った日テレ・ベレーザには、阪口さんや(FCヴィートリアの先輩である)上辻(佑実)さんがスタメンで出場していて。結果的に試合には負けてしまったけど、“これが最後の試合で良かったな”と思えたんです」
実はすでに、この年の始めには“このシーズンで終わりにする”と、現役引退を心に決めていた。サッカー選手・尾山沙希としては、やりたいことをすべてやり切ったという充実感があったからだ。
なでしこリーグで活躍した6年間。午前中は勤務先であるノジマの店舗でレジ業務を担当し、昼すぎから練習を開始。週末は試合。そんな生活を繰り返し、仕事とサッカーを両立させてきた。
「週末に試合があると、その試合に向けて徹底的に調整するタイプでした。たとえば、何時までには就寝するとか、こういうものを食べる、食べたらあかんとか、きっちりと管理していました。チームでは6年間キャプテンを務めていたんですが、いつもチームの状況も考えていて。段々それがしんどくなってきて、さすがに“もういいやろ”って。体力的にも、年齢を重ねて少しずつきつくなっているのを感じていましたし、そろそろ次の道に進んだ方がいいんじゃないかと考え始めるようになっていましたね」
小さい頃から見ていた、献身的な母の姿
そんな尾山さんが次のステージに選んだのが看護師だった。
そのままノジマで働くことはもちろん、他の一般企業に勤めるという選択肢もあった。それでも、医療従事者の道に進んだのは、その道の大先輩でもある看護師の母の姿を見ていたからだ。ある日、自宅で見た光景が印象に残っているという。
「母がよく何かテレビ番組を録画していたんですよ。なんで録画しているのかを聞くと、『これは患者さんに見せるためにやっているんだよ』と話していて。いつも、どこにいても患者さんのことを考えている母。そういう姿を通して、看護師という仕事に興味を持ったり、自然とひかれていたのかもしれません」
引退を決断してからは、サッカーと仕事の両立に、看護学校の社会人入試に向けての勉強も加わった。予備校にも通った。そして2018年2月、見事合格を果たした。