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28歳で現役引退→看護師に転身…なでしこトップ選手が“生死に関わる仕事”を選んだ理由「サッカー選手だったことを知る人はほとんどいない」
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byL)AFLO SPORT
posted2022/07/22 17:00
なでしこリーグ1部・ノジマステラ神奈川相模原でキャプテンマークを巻いてプレーした尾山沙希さん(32歳)。セカンドキャリアとして看護師を選んだ
現在は整形外科病棟で日々の業務にあたっているという。6~7人の患者を受け持ち、点滴、看護ケア、患者の食事介助や排せつ介助、清潔ケア、手術前後の看護などを行っている。
5年前までサッカー選手だったことを知る人は「そんなにいないと思う」という。
「全力でプレーしていたサッカー選手時代のことはもちろん誇りです。だけど、プライドは持っていないですね。プライドを持っていたらセカンドキャリアではやりにくいだろうなって」
ただ、「たまにコミュニケーションの1つのツールとして、流れで自分がサッカー選手だったという話をすることもありますね。うちの病棟には高齢者の方や交通事故の方が多いのですが、たまにスポーツ関係の方がいらっしゃったときは話が膨らむことも」と照れ笑いを浮かべる。
「まだ2年目の看護師が何を言ってるんだという感じですけど(笑)、患者さんはもちろん、一緒に働いている人など、相手の立場に立って考えられるのは、サッカー選手時代の経験あってこそかもしれません。それに何事にも全力で取り組むという姿勢は、サッカー選手の頃から変わっていないと思います」
「命」を預かるプレッシャー
ユニフォームから白衣へ。袖を通す仕事着が変わっても、ノジマステラ神奈川相模原時代にキャプテンとして6年間チームの精神的支柱を務めた責任感や自覚は変わっていない。
そして、かつては自身が人々に夢や希望を与えていたように、今は現役選手としてプレーする後輩たちの姿から刺激を受けている。
「たまにしか見られないんですけど、試合を見ると元気が出ますね。何かに対して全力で取り組んでいる人を見るのは、やはり力になります。現役中、私は全力でサッカーに取り組むことで精一杯でした。最近では『デュアルキャリア』という言葉もありますが、それ以外のことを考える余裕もなかった。だからこそ、今の自分に全力で挑む、そして目標に向かって取り組むことで自ずと次の道が見えてきたり、その道で輝けるのではないかなと私は思っています」
サッカー選手としてピッチの上でプレーしていた頃とはまったく異なる緊張感の中で仕事と向き合う毎日。「看護師は生死に関わる仕事なので、1年目だろうがベテランだろうが関係ありません。常に患者さんの命を守るという責任の重さを痛感しています」と真剣な眼差しを見せる。患者の命を預かるプレッシャーに、ときには押し潰されそうになることもあるが、責任ある仕事を任されているからこその手応えも少しずつ感じている。
「まだ楽しさまでは到達していませんが、患者さんと話をして笑顔が見られた時や、落ち込んでいた患者さんが元気になった姿を見るとうれしいですし、やりがいを感じますね」
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