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28歳で現役引退→看護師に転身…なでしこトップ選手が“生死に関わる仕事”を選んだ理由「サッカー選手だったことを知る人はほとんどいない」
posted2022/07/22 17:00
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph by
L)AFLO SPORT
満開の桜が咲く2021年4月、28歳の若さで一線を退き、看護師として新たな道を歩み始めた元アスリートがいた。
女子サッカーなでしこリーグ1部のノジマステラ神奈川相模原でプレーした尾山沙希さん(32歳)は、17年の現役引退後に、看護学校へ進学した。昨年3月に国家試験に合格し、新人看護師としてのキャリアをスタート。コロナ禍の中、2年目を迎えている。
「どんな仕事でもそうだと思うんですが、慣れるまでが大変でした。最初は本当に分からないことばかりで。今も完璧だとは言えませんが、1つずつ業務を覚えるなかで、患者さんのため何ができるのか、先を見据えながらいろいろと考え、日々を過ごしています」
どんなアスリートにもいつかは引退が訪れ、次の人生、セカンドキャリアがスタートする。ラグビーの福岡堅樹や柔道の朝比奈沙羅など、医師を志すアスリートも増えてきているが、それはごく少数。同様にアスリートから看護師という転身も稀と言えるだろう。スポーツ界から医療の道へ――彼女はなぜ次のステージに「看護師」という職業を選んだのだろうか。
「なでしこ世界一」は別の世界のこと
尾山さんは吉備国際大学4年時の2011年に初めてなでしこリーグのピッチに立った。当時は澤穂希や川澄奈穂美、鮫島彩、永里優季らを擁したなでしこジャパンがW杯で初の世界一に輝いた時期で、なでしこリーグにもたくさんの人がスタジアムへ足を運んでいた。
だが尾山さんは、女子サッカーの認知度も一気に上がったものの、その盛り上がりを別世界のことのように見つめていたという。11年に若手選手で編成した日本選抜の招集経験こそあるものの、日本代表に対する憧れは「選ばれたくないなとは思っていなかったですけど……」と控えめだった。
「大学時代にユニバーシアード代表候補合宿に参加したことはありましたけど、私は代表に選ばれるような選手ではなかったので。(相模原の)チームメイトにも代表選手がいたんですが、そこには及ばないなって冷静な感じでしたね。とにかく目の前にある試合で一生懸命プレーすることが第一。もし見てくれている人がいて選ばれたのなら、それはそれでうれしいな……くらいで」