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「ひと夏で75億円荒稼ぎ」「愛すべき毒舌お馬鹿デブ野郎」代理人ライオラ54年の太く短い人生 若造イブラ様を叱っても信頼された“極意”
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byVI-Images/Getty Images
posted2022/07/02 11:00
ロシアW杯でのイブラヒモビッチとライオラ。彼が世界屈指の代理人になれた理由とは?
前年までギリシャの無名クラブでプレーしていた実兄GKアントニオをミラベッリSDがわざわざ獲得したのは、ライオラに言わせれば“契約更改しろ、さもなくば兄貴は職を……”と人質扱いするためだった。
ドンナルンマは「$ナルンマ」と詰られ、移籍の実現には21年の夏を待たねばならなかったが、記者会見を開き「クラブ側の横暴を許すな」と声を上げたライオラに「何があってもついていく」と誓ったほど、両者の信頼関係は堅かった。
イブラ様いわく「愛すべき、お馬鹿デブ野郎」
アヤックス時代からの長いキャリアを一蓮托生で歩んできたFWズラタン・イブラヒモビッチは、若く粋がっていた頃にライオラから叱責されたことを忘れない。
「いいか、FWはある程度ビッグになったら、言いたいことを言え。自己主張しろ。ただし、点を取る責任も負うことを忘れるな」
イブラは、恰幅のいい中年親父ライオラを親しみ込めて「愛すべき、お馬鹿デブ野郎」と呼んだ。
MFベッラッティ(パリSG)、DFデフライ(インテル)、FWムヒタリアン(ローマ)、FWバロテッリ(アダナ・デミルスポル)……多くの一流プレーヤーたちが、ライオラを実の兄貴や親父のように慕った。
なぜ、彼らはライオラの下に集ったのか。
彼の死去に際し、多くの選手や同業者、大小問わずクラブのフロントや会長たちが弔辞を送った。強面の御意見番ファビオ・カペッロは、故人の真価を次のような言葉で称えた。
「選手たちは、人当たりの良し悪しで自らの命運を託す代理人を決めたりはしない。ライオラはサッカーの真髄をよく理解していた」
判で押したように光沢のあるスーツとアイロンのきいた白シャツに身を包み、薄っぺらい経済論をのたまうだけの量産型エージェントや修羅場をくぐっていないフロントでは、束になってもライオラには敵わない。
「ミノに捧げるよ。この優勝は……」
盟友イブラヒモビッチは知っていた。
「ミノ(・ライオラ)は移民2世だから、若い頃から自分が何をしたいか、そのために何をすべきか、よくわかっていた。移民の子ってのは子供の頃からアイデンティティ獲得のために悩んで、考えて、(世界と)戦わなくちゃならない。俺も移民の子だから、やつの気持ちがわかった」
11年ぶりのミラン優勝会見では、今季のスクデットを「ミノに捧げるよ。この優勝は、あいつ抜きで勝ち取った初めてのタイトルだから」とも語った。3年前の冬、ミラン復帰を進言してくれたのはライオラだった。
22年の夏、残された選手たちのケアは、ライオラとともにエージェンシー企業「One」を築き上げたブラジル人女性弁護士のラファエラ・ピメンタが引き継いだ。