そして、6月10日。試合前にしっかりとトイレ掃除をした。「元々、部屋の掃除をするのは好き。トイレ掃除もするけど、登板日にしたのは初めて」と笑う。母親は一人暮らしをしてから和歌山の梅干しを送ってくれる。酸っぱいけど甘い。ボクシングの井上尚弥もアメリカでの試合に臨む時に梅干しをもっていたというエピソードも聞き、母からは「ほら、やっぱり梅干しはいいのよ」とさらに勧められた。1年目のプロ初勝利の日に栄養が豊富という事でキウイフルーツを食べたことを思い返し、食べた。

　マウンドに上がる前にスタジアムで流れる登場曲も、以前に使用していた曲に戻した。昨シーズン、嵐の『Power of the Paradise』を登場曲にマウンドに上がって5連勝。パワーソングを再起用した。

「たまたま目にしたネット記事で小島は嵐の曲の時は負けていないという記事を目にした。いいことはなんでもやってみようと。今年は違うアーティストの方の曲を使っていたのですけど、気分転換もかねて」

「心が成長したかなと。大人になった」

　そうした準備を経てマウンドに立った小島は、ベイスターズ打線を前に丁寧にコーナーにボールを集めつつ、時にインコースを強気に攻めた。昨シーズンの後半戦に見せた投球が戻ってきた。

　6回を投げ終わったところで救援陣にバトンを渡し、ベンチで試合を見守った。最後を締めた身長206cmの大男、タイロン・ゲレーロ投手と抱擁して喜んだ。

「この期間でだいぶ自分自身、心が成長したかなと思います。大人になった。いつか野球人生を振り返った時に、苦しかったけど、あの時期が大事だったと振り返られるようにしたい。これからも一つ一つの積み重ねを大事にして準備を重ねてマウンドに上がりたいと思います」

　小島のロッカーには今でも辛かった時期に励まされたファンレターと届けられた本の数々が大事そうに保管されている。人は成功体験から学ぶことも多いが、失敗や苦しかった経験、悔しい想いから得ることのほうが多いものだ。その記憶はいつまでも忘れない。

　開幕から3カ月、ローテションの一角を託されてきた背番号「14」はようやく1勝目を記録した。今後につながる、忘れられない白星となった。

　ちなみに今季初勝利を挙げた「6月10日」を調べると暦の上での最上吉日だった。1年に6回しかない吉日の1つだといい、そこには「リスタートの開運日」と記されていた。