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トイレ掃除、井上尚弥も食べた梅干し、嵐のパワーソング「いいことはなんでもやってみよう」ロッテ小島和哉が10度目で掴んだ“1勝”の価値
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千葉ロッテマリーンズ取材班Chiba Lotte Marines
photograph byChiba Lotte Marines
posted2022/06/20 11:00
7月7日に26歳になる小島和哉投手。さらなる飛躍が期待された今季はなかなか白星に恵まれなかったが、6月10日にようやく今季初勝利を挙げた
周りは「大丈夫」「すぐに勝てるよ」と励ましてくれた。それでも勝てなかった。一方で他の先発投手は次々と白星を伸ばしていく。「自分は自分。人は人と言い聞かせた」と小島は振り返るが、やはり焦りは募った。新幹線移動で遠征先に行く際に、途中下車をして名だたる神社に足を運び、手を合わせたこともあった。
人は苦しい時に手を差し伸べてもらった出来事を忘れない。色々な人が勝てない小島を想った。ファンからは多くのファンレターが届いた。故野村克也氏や著名人が残した人生訓や成功するための秘訣などを記した書物、禅の本を送ってくれる人もいた。
「頑張ってくださいと応援してくれる人がいる。こんなところでクヨクヨして無駄な一日を過ごすことは出来ないなと。恥ずかしい姿を見せるわけにはいかないなと思うことが出来ました」
小野晋吾投手コーチは「オレも現役時代に4カ月、勝てない時があって辛かった。髪も抜けた。9回無失点でも勝てない試合があった」と苦しみに寄り添って話しかけてくれた。そして「トイレ掃除をしたら勝てたんだ」と笑い話をしてくれた。心が和んだ。
「グレートではない、グッドでいい」
自分と向き合い、小島が最後に行きついたのは自分で自分を追い込む心を解放することだった。
「80%の力では勝てない。100%でないとダメだと思うと逆に力んだり、出来ないことまで無理やりやろうとしたりしてしまって悪循環になっていた。そうじゃなくて、もっとシンプルに試合を作ることを考えようと。7回で2失点。2点は取られてもいいぐらいの気持ち。絶対に0で抑えようという気持ちのせいで逆に窮屈な投球になっていた部分もあった。勝ち負けは後からついてくるものでもある。9回無失点でも勝てない時は勝てない。自分がどうしようもできないことに力を注ぐのは違うかなと思った」
思えば、昨年、吉井理人投手コーチ(現ピッチングコーディネーター)にも1年間、ローテーションで投げ続ける先発投手の心構えとして「グレートではない。二重丸(◎)でなくていい。グッドでいい。丸(○)でいい。70点ぐらいでいい」と口酸っぱく言われ続けてきた。そうやってシンプルに物事を考え、肩の力を少し抜き、投げることで結果を出した。
徐々に小島のマウンドさばきが変わってきた。9度目の先発となった6月2日の東京ヤクルトスワローズ戦では、敵地・神宮球場で交流戦優勝を果たすことになる強力打線を相手に臆せず、内角を攻めて6回1失点。勝ち投手の権利を得てマウンドを降りた。後続が打たれ試合には敗れたが、なにかが変わりつつある予感を感じるゲームとなった。