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「ヘルメットからタイヤに突っ込む形に…」中上貴晶30歳が引き起こした多重クラッシュの真相と、来季MotoGPクラスの“アジア枠1”獲得の行方
 

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遠藤智

遠藤智Satoshi Endo

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photograph bySatoshi Endo

posted2022/06/10 11:00

「ヘルメットからタイヤに突っ込む形に…」中上貴晶30歳が引き起こした多重クラッシュの真相と、来季MotoGPクラスの“アジア枠1”獲得の行方<Number Web> photograph by Satoshi Endo

1コーナーで転倒後、中上(手前)はグラベルまで飛ばされ、巻き込まれたリンス(奥)は左手首を骨折した

 中上は加藤大治郎を超える逸材として注目を集めてきた。全日本ロードでは連戦連勝。グランプリでは125ccクラスで2年、Moto2クラスで6年、MotoGPクラスで5年目のシーズンを迎え、30歳になった中上は今年で最後というのがパドックの通説となっていた。そういう中での生き残りを賭けた中上の頑張り、焦りが、今回の事故にもつながったというのが多くの見方でもある。

 スタートが良くても序盤を慎重に走ってポジションを落とすのが中上の常であり、ウイークポイントになっていた。それがカタルーニャGPでは4列目から猛烈にダッシュ。トップグループの後ろにつけたことが、結果的に転倒多重クラッシュにつながった。前戦イタリアGPでのアレックス・リンスとの接触に続く2戦連続のアグレッシブな走りに、周囲から批判が集中するのは仕方がなかった。

迫りくる世代交代のとき

 これまで僕は世界に参戦する多くの日本人ライダーたちを見てきた。その中でもホンダは数多くの日本人選手をグランプリに送り出してきたが、中上はホンダがその伸びしろに期待して我慢強く起用してきたライダーのひとりである。しかし、表彰台にあと一歩の4位を最高位に、5年目のシーズンを迎えていまだに表彰台獲得がないという実績に厳しい声も多い。

 日本のファンにとって、日本人ライダーが最高峰クラスに参加するという意義は大きい。これまで中上に代わるライダーがいなかったのも事実だが、小椋やチャントラのようにアジアタレントカップから育ってきたライダーがMoto2クラスで優勝するほど成長したことで、MotoGPクラスの出光ライダーに世代交代が迫っている。

 中上は、今回の事故で骨折などはなかったが、右肩に痛みがあり思うように動かせない状態で、再検査を受けることになる。次戦ドイツGPの出場は、その結果を待ちたいとしているが、今回のレースで非難が集中した中上は、果たしてこれから、どんなレースを見せてくれるのだろうか。身体も精神的にも、しっかり立ち直ってくれることを願うばかりである。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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