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ブラジル指揮官には「日本代表監督就任オファー」があった? 取材記者が知る「親日家の名将チッチ」〈ネイマールも涙した人間力〉
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byTakuya Sugiyama/JMPA
posted2022/06/04 17:01
ロシアW杯のチッチ監督。ブラジルW杯後には日本代表監督就任への“打診”があったという
デデは19歳でデビューし、DFとしては群を抜くスピード、洗練された技術、的確な状況判断で「いずれブラジルのフットボール史上最高のCBになるのではないか」とまで言われた超逸材。サントス時代のネイマールを完璧に封じた国内唯一のDFだった。しかし、その後、度重なる故障に見舞われ、長期間の治療とリハビリを余儀なくされた。ようやくこの年の初めに復帰し、本来のプレーを取り戻しつつあった。
メディアではなく本人に語りかけたこと
チッチは、記者会見の席上、メディア関係者にではなくデデ本人に語りかけた。
「この数年間、私は君が苦闘する姿を眺めてきた。非常につらかったと思うが、君は決して諦めなかった。そして今、再び素晴らしいプレーを見せている。君は世界中のすべてのフットボーラーのお手本だ」
その翌日、クラブの練習場で地元メディアに囲まれたデデは、「テレビで会見を見ていた。チッチの言葉を聞いて、体が震えた。妻と抱き合って泣いたよ。僕が人生で受け取った最高の贈り物だ」と再び涙ぐんだ。
さらに、2017年4月のブラジルリーグのサンパウロ対コリンチャンス戦でのこと。
サンパウロのゴール前のクロスプレーでGKに故意にぶつかったとして主審がコリンチャンスのCFジョー(元名古屋グランパス)にイエローカードを出した際、サンパウロのCBロドリゴ・カイオが「GKに接触したのはジョーではなく僕です」と自己申告し、ジョーへのイエローカードが取り消されたことがあった。このとき主審はカイオに感謝して拍手を送ったのだが、チッチも「カイオのフェアプレーに感銘を受けた」と語った。
フェアプレーと対戦相手への敬意を欠かさない
南米では、勝つためには手段を選ばない監督や選手が少なくない。しかし、チッチはそうではない。勝利を貪欲に求める一方で、フェアプレーを重んじ、対戦相手への敬意を欠かさない。
チーム作りにおいても、選手一人ひとりの話に耳を傾け、自主性を尊重する。それゆえ、クラブでも代表でも、レギュラーのみならず控え選手からも愛される。
日本のファンには、ブラジル代表のスーパースターたちのプレーのみならず、試合前後のチッチ監督の言動にも注目していただきたい。
なお、日本のファンの中には「ブラジルは本気で日本と対戦してくれるのか」と訝しく思っている人がいるようだが、心配は無用だ。韓国戦で5-1の圧勝を飾ったことからも分かるように、ブラジルにとってもW杯前の貴重な強化試合であり、体調不良の選手を除くベストメンバーを組み、全力でプレーするはずだ。
第3回では韓国相手に圧勝したブラジル代表の強さについて触れる。
<#3に続く>