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「暴力団、殺し、誘拐…ヌード以外、何でも撮りました」80歳現役カメラマンは何を目撃してきた?「私、長嶋さんの立教大時代も見たんです」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKYODO
posted2022/04/13 17:01
1954年~58年まで立教大で活躍した長嶋茂雄。58年に巨人入団
「カメラを構えていて、ファインダーに向かってファールボールが飛んで来るなんて、しょっちゅうですよ」
と、穏やかに笑っているが、話の内容はまさに「命がけ」である。
「ファインダーの視界が、ライナーで飛んでくるボールでいっぱいになる……これは、距離感がわからないから、ほんとに怖い。逃げる間もなく、耳をかすって後ろの壁に直撃なんてね。前から来るやつは逃げられるけど、後ろの壁にはね返って、ここに当たって大ケガした人もいますからね」
と、ご自身の後頭部を指さしている。
「とにかく、自分よりカメラですよね。まず、カメラを守る」
カメラ本体も高価なものだが、レンズはその倍ほどもして、今のカメラには撮影した画像をデータとして送信するデジタル機能が搭載されているから、なんだかんだで、一式200万円は下らない代物だと聞いて驚いた。
「重いんですよ……」
持たせてもらって、もっと驚いた。一式で、ざっと20キロ。小学1、2年生の1人分である。
「近ごろの若いもんは…」
「なんか、豪傑っていうんですか……豪快なヤツがいなくなっちゃったなぁ。球児たちが話すのを聞いてても、感謝とか謙虚とか、決まり文句ばっかり。いい子は増えたのかもしれないけど、悔しければ悔しい、泣きたいんなら泣きながら、自分の言葉で、納得できる表現をしてほしいなぁ。若いんですからね。どうせ社会に出れば、言わされることばっかりになるんですから」
一方で、若いカメラマンや記者たちの「最近」に、ちょっと心を痛めることがあるという。
「近ごろの若いもんは……なんて、あんまり言いたくないけど、ひと言ぐらい挨拶しろよってね」
こういう話になると、大友カメラマンは悲しそうに笑う。
「挨拶って、敬意だと思うんですよ。お互い、今日も頑張ろうって。挨拶すれば、会話が始まる。情報を交換できる。仕事がスムースにいって、いい事ばっかりなのに。それより何より、おはようございます!って挨拶すると、気分がスカッとするじゃないですか」
真夏の甲子園で1日4試合、ぶっ通し
7年前、大友カメラマンは自覚症状なし、ステージ1の胃ガンを病んで、胃の3分の2ほども摘出する大手術を受けている。
「王(わん)ちゃん(王貞治)と同じやつですよ!」
命の危機もあったはずの大病なのに、ほがらかに笑っている。
「朝、目が覚めるでしょ。新聞は、まず訃報欄です。知ってる人が亡くなってないのを確かめて、ちょっとホッとする。もう、普通の“80”ですよ」