甲子園の風BACK NUMBER
“大阪桐蔭が取り戻した3つの強さ”をプロ野球スカウトが称賛 「正捕手の松尾選手はクールな印象だったが…」〈センバツ〉
text by
間淳Jun Aida
photograph byKyodo News
posted2022/03/24 20:00
完投勝利を挙げた大阪桐蔭・川原嗣貴。捕手・松尾汐恩の好リードもあり、昨夏2回戦敗退で涙したリベンジを果たした
1失点で完投した川原嗣貴を操った。140キロを超える直球の残像を利用して、カットボールやフォークボールでバットの芯を外し、空振りを奪うリード。さらに、直球と球速差のある変化の大きいカーブを効果的にちりばめた。中盤以降、変化球のイメージを持って打席に入る鳴門の中軸には直球を続け、最後まで的を絞らせなかった。
ピンチでエースの力を最大限に引き出す“笑顔”
そして、投手の力を最大限に引き出す成長はプレー以外にもあった。
2点を先制した直後の4回。川原が1アウトから、鳴門の3番・井川欧莉にツーベースを許す。止めたバットでレフト線に運ばれる不運な当たりだった。
続く4番・前田一輝は初球にデッドボール。ピンチが広がると、松尾がマウンドに駆け寄った。笑顔で話しかけると、松尾につられるように川原も笑みを浮かべたのだ。
そして5番・藤中温人の2球目。ファウルになったボールがマウンドの方へ転がっていく。川原が拾いに行こうとすると、松尾が駆け足でボールに近づいて川原を右手で制するなど、マウンドに立つエースへの心配りが見られた。この回、大阪桐蔭は無失点で切り抜け、試合の流れを鳴門に渡さなかった。
松尾は度々、ジェスチャーを交えて川原や守備陣に指示を出した。スカウトが注目したのは、ピンチではない場面で松尾が見せた川原へのメッセージである。
ミットを地面にこするように「低く、低く」と伝えるしぐさに「狙い通り追い込んだ直後や、川原投手が投げ急ぎそうなタイミングでジェスチャーをしていました。ベンチでも笑顔で声を出していましたし、クールな印象が強かった松尾選手のイメージが変わりました。捕手の重要性や中心選手としての自覚が芽生えたのかもしれません」と語った。
西谷監督も「少し視野が広がってきたかなと」
松尾は打撃では3打数ノーヒットと沈黙した。だが、西谷監督は守備面を評価した。
川原の良さを引き出すリードに「大きなカーブをうまく使ったり、動くボール、落とすボールを生かしたり、真っ直ぐで押したり、頼もしく見ていました。もちろん相手のデータは取っていますが、打者をしっかり見ながらグラウンドで感じたことを大事にしていました。少し視野が広がってきたかなと思います」と称えた。
2021年のセンバツは初戦で、夏の甲子園では2回戦で敗退した。勝つのが当たり前。負けたら騒がれる宿命を背負う大阪桐蔭だが――重圧をはねのけて、センバツで4年ぶりの白星を手にした。スコアだけを見れば辛勝に感じる初戦には、伝統の3つの強さを取り戻した負けない理由が詰まっている。
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