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湘南元守護神の秋元陽太が語る、GKと監督・コーチの人間関係「選手を守れないなら辞めますと言える指導者に」
posted2022/02/23 17:00
text by
林遼平Ryohei Hayashi
photograph by
Shigeki Yamamoto
ピッチ外では優しく温厚な人物なのだが、いざピッチに入ると鬼の形相で周りを叱咤した。「ナイス!」も、「体を張れよ!」も、どちらも怒号。誰に何を思われようが関係ない。チームの勝利のためにできることを真摯に貫く姿が印象的だった。
「いろいろ口うるさいGKは敵を作りますよ。みんながみんないいようには思っていないですから。ただ、別にサッカー界に入って仲の良い友達を作るのが目的ではなかった。そんなに器用には生きられないですし、嫌われたところであまり関係なかったですね」
2021年末、1人のGKが静かに現役生活に幕を閉じた。秋元陽太、34歳。横浜F・マリノスユース時代から世代別代表に選ばれるなど将来を嘱望され、06年にトップチーム昇格。08年にはJリーグデビューも飾った。12年に出場機会を求めて移籍した愛媛FCで頭角を現すと、その後移籍した湘南ベルマーレではJ2優勝やルヴァンカップ優勝とタイトル獲得も経験した。
昨季は古巣の愛媛にレンタルで加入していたが、シーズン途中に負傷するなど不本意な1年に。次のチャレンジをどう考えるかと思いきや、秋元の決断は“引退”だった。
GKとしては若い34歳で引退、その理由は?
「(16年にプレーしたFC東京から)17年に湘南に戻った時に長い期間の契約を結んでもらいました。その契約が終わったあたりからどうしようかとは個人的にも思っていたんです。昨シーズンが終わった時、体は動くんですけど、精神的に上がってくるところがなかった。このまま違うチームでプレーすることになっても、他のGKにいい影響を与えられないなと思ったので辞める決意をしました」
経験がモノをいうGKは、フィールドプレイヤーに比べて選手寿命が長いと言われている。“30歳を超えてからが勝負”と称されるように、ベテランの域に入ってから活躍する選手も少なくない。だからこそ、35歳を迎える前に決断した引退は意外なようにも映る。
「長くやっているからかもしれないですけど、“ベテラン”という言葉は美化されているというか、逆に言えば若手のチャンスを潰しているところもあります。もちろん自分がチームにいい影響を与えられるならもう少しやろうかなと思いましたけど、そうではないと勝手に思ってしまった。いいことを言える選手ではないし、そういうキャラでもない。それならば身を引こうと思いました」
表情は清々しかった。ピッチに立っていた時の殺気立った雰囲気はかけらもなく、むしろ解放感が漂っていた。