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JリーグPRESSBACK NUMBER
岩政大樹が語った「ライセンス制度への本音」と日本サッカー“指導者育成”の問題点「これをやれ、わかりました、では頭打ちに」
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2022/02/19 11:00
2017年、関東1部リーグの東京ユナイテッドFCで「選手兼コーチ」として指導にあたる岩政大樹
――本田圭佑選手のように、ライセンス制度の不要論を掲げる人もいますが、選手と監督はまったく別の仕事だという意見もあります。岩政さんはどう考えていますか?
選手と監督は別モノだと考えています。同じ言葉を伝えるにしても、選手同士の場合は、それぞれ個人にフォーカスしているんです。しかし監督は全体から個へと入っていくことがほとんどです。コーチは個人から入っていくこともあると思いますが、監督と選手とでは頭の回し方が逆なんです。ミーティングでチーム全体に言葉を伝えるときも、監督はいかに選手たちの考え方を揃えられるのか、という観点から言葉を選びます。
もちろん、監督にも選手時代の経験が役立つ場面はあります。見てきた風景がたくさんあり、多くの監督と仕事もしてきた。試合の流れや空気を読むような感覚は、トップクラスを経験していない人にはわからない感覚だと思いますから。ただ、戦術的に整合性を持ち、チームをマネジメントしていくというのは、選手とは別の能力が問われる部分です。それを学び、指導実績を積んで自分のスタイルを確立するうえで、ライセンス制度の正当性は別にして、時間や経験、そしてマインドセットは必要だと思いますね。
「これをやれ」「わかりました」が多い指導現場
――岩政さんは鹿島時代にC級を取得して、B級以降はどのようにライセンスを取得されたんですか?
B級以降は岡山を退団したあとだったので、Jリーグの選手コースではなく、一般のコースを受講したんです。町クラブや中体連、高体連で指導されている人たちと一緒だったので、いろんなサッカーの現状を知る機会になりました。そこで感じたのは、僕は長く選手をやっていたから「選手側がどう受け取るか」を常に考えるんですが、指導者はどうしても伝えたいことに注力してしまい、選手の視点が薄れてしまうこともあるんだな、と。
――指導経験が長いと、つい“指導者目線”ばかりになってしまいがち、ということですね。
ライセンス講習の指導実践はA級だと20分、S級だと1時間ほどです。そのなかで選手に体現してほしいことを伝えるとなると、ケーススタディというか、「センターバックがボールを持ったら、サイドバックはこう動いて、ボランチはこんなふうに」という話が多くなってしまう。それは指導者としては理解できるんですが、選手にしてみれば「その次はどうしますか?」となる。すべてを指示することなんてできない。だから、現象という結果の前段階で鍵になる言葉、フレーズを提示することで、選手がプレーしたときに自然とその現象が生まれてくるデザインをすることが指導だと思うんです。特にB級やA級の現場では、「これをやってくれ」「はい、わかりました」という指導スタイルが多いなと感じました。