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名作「クール・ランニング」で話題…ボブスレージャマイカ代表が24年ぶりに五輪に帰ってきた話〈ボルトはメンバー入りを辞退〉
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byGetty Images
posted2022/02/11 11:02
名作「クール・ランニング」の奇跡が再び起こった。24年ぶりにジャマイカ代表が冬季五輪のボブスレーに帰ってきたのだ
それまで表情をあまり変えずに話していた女王の目が、突然キラキラと輝きだした。
「あら、なんだか危なそうねぇ」
ちょっと茶目っ気のある表情で切り返す。
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空軍のスナイパーよりもボブスレーの方が危なそう、というツッコミは英国式ジョークなのだろうか。これにはスティーブンスもさすがに苦笑い。
「はい。危険もあるのですが、そうならないようにプロアスリートとして最大限の努力を払っています」
女王の興味は尽きない。
「どんな練習をしているの?」
「はい。コロナ禍でジムも練習場所も閉鎖になってしまったので、とても古典的な練習をしています。路上で車を押したりしていますね」
エリザベス女王はその姿を想像したのだろうか。体を震わせて笑い出し、「そうね。それしかないわよね」と返すと、会談に参加していた全員が笑顔になった。
「大会や合宿が中止になったり大変だと思うけれど、がんばってね」
コロナ禍の練習方法でエリザベス女王に笑ってもらえたのは、世界中で彼くらいではないだろうか。
ちなみに坂道でガールフレンドのミニクーパーを押す練習をしていた際、近所の住人から不審な視線を送られたり、車が壊れてしまったのでは、と心配した人たちに、「よかったらジャンプスタートしましょうか」と声をかけられたこともあった。それでも、ボブスレーのジャマイカ代表で練習中ですと伝えると、応援してくれる人も増えた。
コロナで苦労はあったものの、『クール・ランニング北京編』が作れそうな面白いエピソードを経て、彼らは北京への切符を獲得したのだ。
「『クール・ランニング』が合言葉になっているけど…」
今大会も代表権を勝ち取って、メディアから注目されることも増えた。『クール・ランニング』効果であることは重々理解している。しかし彼らが目指すのは「メダル。もしくはジャマイカ代表として過去最高の成績」と高い目標を掲げる。4人乗りの最高順位は1994年リレハンメル大会の14位だ。
メンバーたちはこう話す。
「ジャマイカのボブスレーといえば『クール・ランニング』が合言葉になっていて、実際その通りだし、特に気にはしていないけれど、今の自分たちは真剣に競技に向き合っていることを知ってほしい。(ジャマイカという)ビューティフルな国を代表できるのがとても光栄。ジャマイカだって冬季五輪で戦えるってことを証明したいし、子供たちにそれを知ってほしい」
陽気で真面目でひたむきな彼らが、北京の地でどんなストーリーを生み出すのか注目してほしい。