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「美帆に絶対負けたくない」から12年…高木菜那が妹・高木美帆の“最後の五輪”を見つめた表情の意味「結構、心配しているんだろうな」
posted2026/03/06 11:13
ミラノ五輪後に現役引退を発表した高木美帆。その五輪最後のレースを見つめた姉・菜那さんとの関係の変わった部分、変わらない部分とは
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矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
Asami Enomoto/JMPA
静寂のリンクには張り詰めた空気が漂っていた。ミラノ・コルティナ五輪の閉幕まで残すところ3日となっていた2月20日、女子1500mの第1組のレースが始まる約50分前。ミラノ郊外にあるスピードスケート会場は人影もまばらで、リンクを連日賑やかに盛り上げているオレンジ軍団=オランダ人ファンの姿もまだほとんどない。
見ると、氷上にいるのは高木美帆、ただひとりだった。
高木の出番は最終15組。この種目の世界記録保持者は、他の選手がレース開始に向けて引き揚げた後も10分以上、ひとりだけリンクに残り、ゆっくりと足を動かしながら、ひと蹴りひと蹴りを入念にチェックしていた。
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これまで見せたことがないほどの緊迫感があった。
「集大成」
聞かれる度にそう答えていた通りの気迫がみなぎっていた。
菜那さんも解説の笑顔とは違う表情を浮かべていた
ふと目を移すと、姉の高木菜那さんが記者席近くの通路から微動だにせずリンクを見つめていた。
テレビの解説でミラノに来ていた菜那さんは、元競技者としてのスタンスを軸に、的確でなおかつ建設的なコメントを発信して各選手の健闘を視聴者に連日伝えていた。会場で姿を見かける時は、明るいキャラクターどおりの笑顔が多かった。
ところが、女子1500mでは違った。菜那さんの表情にもまた、これまで見たことがないような張り詰めた緊張感が浮かんでいた。それは世界一大事な「妹」を見つめる「姉」の顔であり、今まさにスケート人生を賭した大一番に挑もうとしている高木の鼓動とシンクロしているようでもあった。
現役時代に菜那さんが「高木美帆の姉」と言われて悔しい思いをしていたというのは今ではよく知られた話だが、実際に菜那さんが「美帆に絶対に負けたくないという気持ちで練習してきた」とはっきり口にするようになったのは、互いに1度ずつ五輪を経験した後からだ。
2014年ソチ五輪に初出場する前の菜那さんは、10年バンクーバー五輪に妹が出場したことについて話題に出されるのを好んでいないように見えていた。聞かれると決まって、ちょっと尖っていた。


