「僕は打者としては高校時代のストライクゾーンしか知らなかったので、プロはこんなに狭いんだって」

　ピッチャーとして狭く感じていたストライクゾーンは、打者目線からすればコンパクトで対応しやすく感じられた。11月の秋季トレーニングからは外野手組に入り、自主トレ期間も含め毎日バットを振りつづけた。

　打って、走って、守る――投手時代とは違うやりがいと、忘れていた野球への気持ちが勝又の全身に染み入っていく。久しぶりに「野球ってこんなに楽しいんだ」と実感した。

「ピッチャーにはピッチャーの良さがあるし、ピッチャーでなければ得ることのできない感覚や気持ちよさがあると思うんです。きっと打者にも同じぐらいの、いやそれ以上の魅力があると思うので、そこにどんどん浸かっていきたいですね。ただ、きっと打者をつづけていくとピッチャー時代と同じ壁にぶつかると思うんです。けど、その壁は経験しているので決して同じ失敗を繰り返さないようにしたいし、そうならない自信もあります」

目指すは支配下登録

　現在、勝又は沖縄県嘉手納のファームキャンプで汗を流している。もうブルペンに足を運ぶことはない。「チームで一番へたくそな外野手」を自認する元投手のルーキー野手は懸命に白球を追い、今日もバットを振りつづける。その右の掌はマメだらけでありテーピングが巻かれていた。

　群雄割拠のDeNA外野陣ではあるが、まず目指すは言うまでもなく支配下登録。本人としては夏までには実現したいと考えている。生まれ変わって新たな活力を得た無名の男は、果たしてどんな歩みを見せてくれるのか。

　最後、勝又に「やっていけそうですか？」とシンプルに尋ねると、食い気味に「いやもう、やりたいですよ！」と言った。

　この苦しかった3年間の鬱憤を晴らすかのような気持ちで？

「本当ですね。もう“ふざけんじゃねえ！”って気持ちでとことんやっていきたいです」

　そう威勢よく言い放つと勝又は目を細め破顔一笑した。失うものはなにもない。あとは目線を上げ、結果を出し駆け登っていくだけだ。