まさに塗炭の苦しみだった。自分の“型”を見つけられず、歩むべき道を進むことさえできない。勝又の2年目はイースタンでわずか1試合の登板で終わっている。

「本当にしんどくて、もう二度とあんな経験はしたくないですね……」

　勝又を襲ったイップスとおぼしき状況は思いのほか深刻だった。感覚やメンタルの問題ゆえに誰かに話しても理解されないことが多かった。いつしか勝又は貝になり、悶々とひとりで向き合わざるを得なくなった。

「日常生活に例えるなら“歩けなくなる”ぐらいの感覚でした。相談するにしても、どう伝えていいかわからないし、自分のなにがダメなのかさえ理解できませんでした。それが一番苦しかった」

　そう言葉を吐き出すと、次の瞬間、勝又は目に力を入れてつづけた。

「ただ今から思えば、あの時間が自分を成長させてくれました」

3年目の失望

　プロ野球選手として生きていくことに危機感を強めた3年目は、オフシーズンの調整が幸い上手く行き、キャンプイン前にルーキーイヤーのころの球威を取り戻していた。

「いい感覚をつかみ、キャンプでも納得のいくボールを投げることができていたので、今年は行けると思っていたのですが……」

　光明が射したと感じたのもつかの間、またもや暗雲が立ち込める。昨季のスタッツはイースタンで主にリリーフとして31試合に登板し3勝1敗、防御率1.83。一見上々の成績と思えるのだが、やはり制球で苦しみ34回1/3を投げ四死球は44だった。変わることができたのか、それともできなかったのか。勝又は正直に心情を吐露する。

「今年は行けるかなと思っていたのですが、夏前ぐらいからまた崩れてきてしまって……。明らかに春先のボールと違うと自分でもわかったし、納得いく投球ができず……」

　喪失感。いいボールでないことは投げている自分が一番わかっていた。そして球団も同様の評価を下していた。10月5日、勝又は球団から契約を更新しないことを告げられた。

「伝えられたときは悔しかったです」

　勝又はそう言うと少し苦笑を浮かべながら「けど……」とつづけた。

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