猛牛のささやきBACK NUMBER
オリックス中嶋監督は大事な場面でなぜ「吉田凌」を起用した? 恐怖と闘いながら磨くスライダーと、“打たれた”日本シリーズの反省
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/01/26 11:00
25年ぶりのリーグ優勝に貢献し、昨季の日本シリーズでは5試合に登板した吉田凌。新シーズンの活躍も期待したい
手痛い一発を浴びたが、中嶋監督の信頼は揺らがなかった。後がなくなった第5戦も、同点の6回2死一、三塁の場面で吉田をマウンドに送った。
「『こんな場面でまた行くの?』って僕も思いました。そういうのが嬉しかったです」
吉田は信頼に応えて無失点で切り抜け、逆転勝利への流れを作った。
「あの舞台で5試合も投げられたという、その経験はすごく大きい。もっと、そういうところでも物怖じしないようにならないと」と、苦い経験を糧にする。
改めて、ストレートを磨き、投球の幅を広げる必要性を感じたという。
「日本シリーズが終わってから、録画を全部見直したんですよ。そしたら、画面に僕のレギュラーシーズン中の球種の割合が出ていたんですけど、66.2%がスライダーだったんです。『めっちゃ投げてるやん!』と自分でも驚きました。まっすぐも行くんですけど、やっぱりいざ(勝負所で)サインが出たら首を振ってしまう。でもそこを頷いて、投げられるようにならないと、きついですよね」
守護神の打診に「無理です」
12月の契約更改の場では、福良淳一ゼネラルマネージャーから思わぬ打診を受けた。
「9回はどうや? フォアボールをあまり出さないから、そういうピッチャーなら後ろを任せやすい。お前なら行けると思うけどな」
中嶋監督が評価しているのもそこだろう。吉田は四球から崩れる心配が少なく、日本シリーズでも四球は0だった。
だが守護神候補の打診を、吉田はその場で「無理です。よー投げないです」と辞退した。
「今年、平野(佳寿)さんをずっと見てたんですけど、9回は1番バッターとかクリーンアップから始まったりするところを、平野さんは普通に抑えていた。僕があそこに立っていたらと考えたら……今年のツーアウト一、三塁とか二、三塁とかのほうがまだ行けるわと思って(苦笑)。だから、『僕にはちょっとまだ荷が重いです。まだ一、三塁とかのほうがいいです。まず7回8回を目指します』と言いました」
そう思っていても、その場では「頑張ります」と言ってしまいそうなものだが、真正直に「無理です」と答えるところが吉田らしい。福良GMは「ほんとかー」と笑うしかなかった。
「まず7回8回をしっかり任せてもらえるようになって、チーム全員に信頼してもらえるようになりたい」と、24歳吉田凌は、一歩一歩、地に足をつけて進んでいく。
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