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難病と闘うオリックス西浦颯大(22)早すぎる引退「ずっと、プロ野球選手が将来の夢」恩師・馬淵監督も惜しがる才能
posted2021/09/30 11:06
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Noriko Yonemushi
以前は自慢の快足を飛ばし一瞬でたどり着いたセンターの守備位置が、遠く感じられた。それでも西浦颯大は一歩ずつ、グラウンドを踏みしめながら、ゆっくりと歩いてセンターに向かった。プロ野球選手として最後に向かう守備。込み上げてくるものがあった。
「自分がしてきたファインプレーとか、よみがえってきて。泣きたくなかったんですけど、泣いちゃいました」
9月28日のウエスタン・リーグ広島戦が、オリックスの外野手・西浦の引退試合となった。
9回表の守備についた西浦は、レフトの中川圭太と約10カ月ぶりのキャッチボールをした。そして前佑囲斗の143キロの心のこもったボール球を1球見届けると、またゆっくりと歩いてベンチに向かった。1球限りの出場だった。
ベンチ前で、同期入団の西村凌から花束を受け取り、抱き合うと、涙をこらえきれなかった。
守備につくのは1球だけ
9月24日に西浦の引退が発表された時、同時に、28日の広島戦の最終回の守備につくと公表された。これまで見せてくれたスーパーキャッチやレーザービームが最後に見られる奇跡を、筆者は心のどこかで安易に期待していた。8月末に西浦がSNSに投稿した、ティー打撃ができるようになっている映像が頭に残っていた。
しかし28日の朝、オセアンバファローズスタジアム舞洲に着いて、「守備につくのは1球だけ」という情報を聞き、それほど病状が思わしくないのだと悟った。そして青濤館から球場まで、松葉杖を支えに歩いてくる西浦の姿を見た時、現実を突きつけられた。