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「伝説でしょ」オリックス小田裕也のサヨナラバスター、32歳苦労人が“ワンチャンス”を掴むまで《今季はわずか1安打》
posted2021/11/17 11:02
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Sankei Shimbun
「小田様!」
取材を受けているオリックス・小田裕也の横を通り過ぎるスタッフが、そう声をかけていく。
「へへ」と小田は照れくさそうに笑った。
劇的なサヨナラバスターで日本シリーズ進出を決めた3日後。まだ小田ブームは続いていた。
11月12日に行われたオリックス対ロッテのCSファイナルステージ第3戦。2-3とリードされて迎えた9回裏無死1、2塁の場面で、小田が打席に入った。
中嶋聡監督がバスターのサインを出した瞬間、ベンチはざわつき、小田は、実は少しホッとした。
最初のサインは予想通り“バント”
その回は、先頭の5番・T-岡田が右前安打で出塁。続いて6番・安達了一が打席に入った。
8回表の守備から出場し7番に入っていた小田は、代打の準備をする頓宮裕真の姿を横目に、こう考えていた。
「安達さんがバントをしたら、たぶん頓宮が代打で行くだろうな。安達さんが出塁して一、二塁になったら、僕がそのまま行ってバントだろう」
安達は初球でバントを試みるがファールになる。そして2球目、ヒッティングに切り替えて左前安打を放ち、無死一、二塁とした。
安達の打球が三遊間を抜けた瞬間、ベンチの選手は飛び出し、お祭り騒ぎとなったが、小田だけは表情を変えることなく打席に向かった。
最初のサインは、小田の予想通り“バント”だった。
しかし、マウンドに集まってから一旦守備位置に戻っていたロッテの内野陣が、再びマウンドに集まり念入りに確認を行う。何か仕掛けてくる、シフトを敷いてくることも予想できた。
この後、小田に2度目のサインが出た。“バスター”だった。
その時ベンチにいた宗佑磨は、今でもその瞬間を振り返ると興奮が蘇る。
「ざわつきましたよ! 僕の隣にいた太田(椋)が、『え? 宗さん! バスターのサイン出ましたよ!』と言ってきたんで、『マジで? マジで? うわー仕掛けるやん!』って。ビビリましたよ。『見てるこっちが足震えるなー』って話をしていました」