バレーボールPRESSBACK NUMBER
“愛されたセッター”佐藤美弥、東京五輪を前に現役引退を決意…その理由は?「たとえ周りにどう思われようと私は頑張った、って」
posted2021/05/20 11:02
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
Naoki Morita/AFLO SPORT
東京五輪の開幕まであと71日。未だ開催の可否も問われる中、その議論の中心に立つこともなく、1人の選手がユニフォームを脱ぐ。
女子バレー日本代表、佐藤美弥。
2019年のワールドカップでは全試合に出場し、今季も日本代表登録選手の1人。周囲が「正セッターは佐藤だろう」と見ていたであろう五輪イヤーに、彼女は引退を決断した。
所属する日立リヴァーレでも2020/21シーズンにユニフォームを着てベンチ入りしたのはわずか2試合のみ。ケガ、体調不良、コンディション悪化。憶測ばかりが飛び交う中、静かに耐え、その都度溢れそうになる感情を押し殺し、戦っていた。
「正直に言えば、出られないならオリンピックなんて開催されなければいいのに、って思ったこともありました。それぐらい、私にとって“オリンピックはすべて”でしたから」
言葉を選びながら振り返る、いくつものあの日。佐藤が重い口を開いた。
非公開で行われた紅白戦で
東京五輪、国際大会が相次いで中止になった1年前の8月2日。男女バレーボール日本代表の紅白戦が開催された。
会場は非公開の完全リモート。中継スタッフを除く取材陣も一切会場に行けぬどころか、リモートでの取材対応もなし。合宿を行ってはいたが、緊急事態宣言で普段通りの練習を重ねることはできず、選手のコンディションも万全には程遠い。試合というよりも、日頃応援してくれるファンへ向けてのイベント的な要素が先走っているのは否めない紅白戦で、男女ともに新戦力の台頭など明るい話題もあった。
だがその試合で、佐藤は負傷した。
「右アキレス腱損傷でした。よく、アキレス腱をケガした人が『バットで殴られたみたい』と言うけれど、本当にそんな感じで。完全に断裂したわけではなかったけれど、部分的に切れ目が入っていました。でも、その時はまだ全然。間に合う、と思っていたんです」