マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「東京六大学で“5位”は最下位を意味する」とは言わせない…“東芝を苦しめた”東大野球部、今年は弱くないぞ
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySankei Shimbun
posted2021/04/07 18:00
東芝戦に先発し、5回無失点に抑えた東大の投手・井澤駿介
捕手・松岡泰希(3年・174cm76kg・右投右打・東京都市大付)…ディフェンス能力にかけては、東京六大学の他校のレギュラーマスクと比べても全く遜色なしの、なんとも「いい匂いのする捕手」なのだ。
シートノック前、先発の井澤投手と遠投するダグアウト前の姿に、強烈に惹きつけられた。
遠投のボールだから、上下左右にいくらかはブレる。そのボールの「捕球点」をひとつひとつきっちり決めて、ミットを止めて捕球する。ミットを流して捕らないから、重量感のある捕球音だ。この捕球音が、試合前のどこか不安な投手の心情を鼓舞し勇気づける。まさに「キャッチャー」である。
スローイングもいい。
軸足(右足)の足首がクルッとひっくり返って、スパイクの足の裏が見える。甲が地面に付いたままなかなか離れないから、その間は指先からボールが離れず、リリースでものすごく指先のかかりがいい。投手でいえば、「球持ちがいい」というやつだ。
7分の力感ぐらいで、送球がスルスルと伸びていくように見えて、二塁ベースの上にポンと乗せられる本物の「強肩」。東京六大学では、3、4年前の早稲田大学・小藤翼捕手(日大三、現・JR東日本)が、ちょうどこんなふうな、品の良いスローイングを見せてくれていた。
キャッチャーズボックスでミットを構える姿は、全身が丸いミットそのもののように見える。いい匂いが漂う。見るからに、投手が投げやすそうな捕手だ。
ホームベースの両端ではなく、バッターボックスの縦のラインでミットを構えるような、大胆で意図のはっきりした所作は、投げる投手の意識を間違いなく“決然”とさせる。
あまりにも堂に入った仕事ぶりだから、てっきり最上級生かと思ったら、この春から「3年生」と気づいて、また驚いた。
でも、そのほうがよい。もっと上手くなれる時間が、もう2年ある。
9回まで東大2対0のままだったが……
そのうち東芝も怒るだろう……と思いながら、いつの間にか、東大2対0とリードのままに、試合は最終回に進んでいた。
よもや、と思ったあたりから、試合の流れが変わった。内野ゴロで東芝が1点を返すと、東大は「受け」にまわってしまった。