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【2021年ドラフト隠し玉】イジメ、怪我、失恋…“逆境に強い”横浜市大サイドスロー右腕「プロに“なりたい”じゃなくて“なります”」
posted2021/04/12 17:00
text by
高木遊Yu Takagi
photograph by
Yu Takagi
学内のミスターコンテスト準グランプリにして料理上手。でも野球界ではまだまだ“無名”なイケメン右腕は、神奈川大学リーグ1部復帰のため、そして自身の未来を切り拓くために、大学野球最後の一年を野球へ全精力を注いでいる。
横浜市立大学の遠江颯太(とおのえ・そうた)。この名前を聞いてピンと来る人はほとんどいないだろうが、着実に力をつけている期待のサイドスロー右腕だ。
神奈川大学野球連盟に所属した大学で構成される神奈川大学リーグは、昨秋に渡部健人(桐蔭横浜大)が西武からドラフト1位指名され、今年も横浜商科大の右腕・飯田琉斗らがドラフト候補に挙がる、金の卵が揃う大学リーグの1つ。1部リーグはメイン球場に横浜スタジアムを使用するなど、環境面も申し分ない。
一方、遠江が在学する横浜市立大は現在、同リーグの2部を戦う。過去13回の優勝経験がある古豪だが、2004年秋からは1部の舞台から遠ざかっているのだ。公立大学ゆえに、野球をする環境は恵まれているとは言えず、部員数はわずか21人(選手17人のうち投手3人)の小所帯。金沢八景キャンパス内にあるグラウンドは野球の試合・練習を行うには十分な広さがあるが、他部との併用のため平日に使えるのは8時15分から13時まで。
昨年は緊急事態宣言の前後合わせて約4カ月もの間、活動することができなかった。
昨秋に覚醒、巧みな投球術でフル回転
そんな逆境の中で遠江は昨秋に大活躍を遂げる。2部リーグながら4勝(1敗)、防御率1.11、47奪三振を記録し、大学の全リーグトップの成績を挙げた。特筆すべきはそのタフネスぶりで、10試合中9試合57イニング(これもリーグトップ)に登板。チームの約3分の2を遠江が投げた。
フル回転の中でも結果を残せたのは、投球の中で様々な「出力」を使えることにある。打者や試合展開によって力の入れ具合を絶妙に変えている。
また、視察したスカウトが「手先が器用ですよね」と評すように、打者の手元で変化するカットボール、緩やかに横に落ちていくスラーブ、シンカーのように左打者の外側に逃げていくフォークと、多彩な変化球を自在に操る。さらに、ストレートも最速140キロを超えるが「速くて伸びるもの、速くてシュートするもの、5キロくらい遅くなって落ちるもの、3種類あります」と巧みに使い分けている。