福岡に帰るのが怖かった。何を言われるだろうって

　博多駅のホームに降りた瞬間、ホークスの面々には大勢の警備員が警護についた。彼らに守られるようにして階段に向かうと、斉藤の視界に信じられない光景が飛び込んできた。ホークスファンが、雲霞のように改札階を埋め尽くしていたのだ。

　その瞬間、斉藤は「ヤバい」と思った。

「3連敗したので、ぼくは福岡に帰るのが怖かった。何を言われるだろうって」

　だが、杞憂だった。

　タクシー乗り場に向かうナインに降り注いだのは罵声ではなく、激励の声だった。

「がんばれ！　勝負はこれからだ！」

「大丈夫!!　まだいける！　俺たちがついてるぞ！」

“ここからが勝負や”と思えた

　このときの光景を話しながら、斉藤はもう一度、「ヤバい」と口にした。

「ヤバいです。この話をするだけで、いまだに込み上げてくる。3連敗しても“もう一回、ここからが勝負や”と思えたのは、間違いなく、あれがあったからなんです」

　待ちわびた“我が家”への帰還。福岡ドームに立った松中は、ホークスファンのある変化に気がついた。1、2戦目に比べて、声援が明らかに迫力を増していたのだ。

「福岡での1、2戦目からタイガースファンの応援はすさまじいものがありました。あのドッカンドッカンという大迫力の応援を目の当たりにして、ホークスファンも“俺たちも負けられないぞ”と気合いが入ったんだと思います」

　地元の大声援に奮い立ち、ホークスは本来の力を取り戻した。第6戦、第7戦ともに投打が噛み合い、タイガースを押し切った。終わってみれば史上初めてホームチームが全試合に勝利したこのシリーズは、「内弁慶シリーズ」と呼ばれることになる。

第1戦の斉藤は4点（自責3）を失ったものの、7回途中まで投げて勝利に貢献　photograph by Hideki Sugiyama

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