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“史上最強のホークス”を松中信彦と斉藤和巳が語る「甲子園の地鳴りと博多駅の激励」【内弁慶シリーズ】
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/11/23 17:01
「王監督の胴上げ、きれいなんですよね」当時の主砲とエースが最強ホークスを語る
阪神の攻撃になると地鳴りがする
福岡での第1戦に続き、雨で一日流れたことで甲子園での第5戦に登板した斉藤も、甲子園の洗礼に呆然とした。
「まず、ベンチからホークスファンがほとんど見えない。見えたところで、小指一本分くらい。そして阪神の攻撃になると地鳴りがする。異様なムードでした」
揺れる甲子園で、流れは一気に変わった。
ホークスは連夜のサヨナラ負けを喫し、3連敗阻止を託された斉藤も中盤で逆転打を浴び、敗戦投手となった。タイガースの主砲、金本知憲には3戦連続ホームランを浴びて、崖っぷちに立たされた。
2-3と惜敗した第5戦の内容を、斉藤はほとんど憶えていない。だが、忘れられないシーンがある。それは敗戦後、宿舎へ帰るバスの異様な光景だ。
ホークスのバスは逃げるように走り去る
ホークスのバスは血気盛んなタイガースファンに狙われないよう、シャッターで外から隔離されていた。車内の電気は消え、すべてのカーテンが降ろされていた。
チーム全員が乗り込んだところで勢いよくシャッターが上がり、バスは急発進する。勝利に酔いしれるタイガースファンで埋まった場外の動線を、逃げるように走り去っていくのだ。そして人影のない住宅地で、ようやく車中に明かりが灯る。
「そんな帰り方、一度も経験したことがない。とにかくトラブルがあってはいけないということで、運営側が神経をとがらせていたんだと思います。これが3日も続くと、“今日もこれか……”とうんざりしました」
失意のまま新幹線で帰路についたホークス一行は、博多駅でも思いもよらない出来事に遭遇した。