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引退発表当日…オシムが語った“サッカー選手・中村憲剛”「できることなら撤回してほしい」
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byTakuya Sugiyama
posted2020/11/12 17:02
中村憲剛に指導するイビチャ・オシム元日本代表監督
オシム よろしく伝えて欲しい。これからも健やかで素晴らしい人生を送ることを願っている。それからサッカーのことは決して忘れて欲しくはない。彼の生涯で最も素晴らしいのはサッカーであるのだから。これからの人生は大変かもしれないが、いろいろなことができるだろう。
彼はサッカーを愛した。それは彼のプレーを見ればよくわかる。楽しんでプレーしていたし、周囲にも喜びを与えていた。良質なサッカー、繊細で技巧的なサッカーの実践という点でとてもいい模範だった。
どうしてあんなパスを出しシュートを打てるのか?
――あなたのチームでも、中村俊輔や遠藤保仁とともに中盤を構成しました。
オシム 彼のようにサッカーを愛し本当に優れた選手は、完全にサッカーから離れるべきではない。何かのかたちでサッカー界に残るべきだ。何をするかはわからないが、監督がいいかも知れない。選手時代の経験を生かして選手たちを進歩させることができる。サッカーの素晴らしさを彼は別の形で人々に伝えていくべきだ。自ら培ったノウハウで、選手たちを育てる機会を得ることだろう。
ヨーロッパに試合を見に来るのもいい。同じ年代でまだプレーしている選手たちを見れば、何か触発されるだろう。
彼に素晴らしい未来が開けることを願っているし、サッカーの世界に残って欲しい。どんな形でいつまでになるかはわからないが、とにかくサッカー界で何かをやって欲しい。とりわけ若い世代と。彼自身もまだ若い。やせ細っているのも変わらない。体重が25㎏しかない彼が、どうしてあんなパスを出しシュートを打てるのか私はずっと不思議だった(笑)。
――それは今も変わりません。
オシム プレーは驚きに満ちていた。それがパスであれシュートであれゴールであれ、彼のプレーには常に驚きがあった。だからこそサッカーは素晴らしいといえる。日本代表とともにここ(グラーツ)にも来て欲しいが。
――代表はすでに引退しているのでそれはないです。しかしあなたのチームでも彼は……。