酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
ビールの売り子はいるけど、まるで昭和のパ・リーグ 「5000人」観戦に見た原点
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKyodo News
posted2020/09/19 10:00
山本由伸の好投で勝利したオリックスに拍手を贈るファン。京セラドーム大阪での5000人の光景には野球の原点があった
まるで昭和のパ・リーグのような……
率直に言うが、筆者は平成この方、こんなにゆったりと野球観戦したことはない。
プロ野球の観客動員は昨年、平均で3万人を超えた。ぎっしりとお客が詰まった中で観戦するのが当たり前だった。私のようにスコアブックを拡げて観戦する人間は、隣の人に触れないように気を使い、肩身の狭い思いをしていたが、今年はそういうことが一切なくなった。
昭和のパ・リーグの試合のように、隣の席にモノを置いてゆったり見ることができるのだ。不謹慎ながら「こりゃいい」と思わざるを得なかった。
ただし、指定の席以外で観戦していると係員が「チケットを見せてください」と言いに来る。そのあたりは厳密に管理されているのだ。
スタジアム内では観客は飲食の際を除いて、マスクを着用しなければならない。試合中に何回か、警備員が客席の一番前に降りて観客席を見渡し、マスクを着けていない人がいると注意をした。飛行機の客席と違って抵抗する人はいないが、実にモノモノしかった。
ビールの売り子はフェイスシールドを
ビールや食べ物は販売しているし、ビールの売り子も観客席を回っている。しかし雰囲気は以前とは異なっている。
筆者はプロ野球のビールの売り子の取材をしたことがある。
彼女たちはお客の小さな反応を見逃さない。絶妙のタイミングで手を上げ、声をかける。少々遠くてもお客の手が上がったら駆け付けて1杯のビールを売る。その短い交流から「お得意さん」も生まれる。
営業マンの鑑のような働きぶりなのだが、今の彼女たちは声を上げることはない。フェイスシールドをして黙って客席の間を回っている。なおビールの販売は7回裏までになっている。
ビールを飲んで気が大きくなったのか、マスクを外して大声で話し出すお客が散見された。ベンチ近くのお客の中には、係員に注意されている人もいた。なお筆者は球場で飲むビールが人生最高の一杯だと思っているが、今は「一杯だけ」と自重している。