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ビールの売り子はいるけど、まるで昭和のパ・リーグ 「5000人」観戦に見た原点 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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photograph byKyodo News

posted2020/09/19 10:00

ビールの売り子はいるけど、まるで昭和のパ・リーグ 「5000人」観戦に見た原点<Number Web> photograph by Kyodo News

山本由伸の好投で勝利したオリックスに拍手を贈るファン。京セラドーム大阪での5000人の光景には野球の原点があった

「拍手」に想起する芝居の「じわ」

 客席では大きな声を上げることは禁止されている。選手の応援ソングを歌うこともできないし、選手に声をかけることもできない。

 応援は主として「拍手」になるが、私にはこれが実に快かった。好プレーに対して、潮騒のように拍手が起こるのだ。

 芝居の世界では、役者の好演に対して、観客席からため息交じりの拍手が起こる。これを「じわ」といって、役者にとってはお客が見せる最高の評価とされるが、今のプロ野球の観客席は「じわ」に近い反応を見せているのだ。

 内野手が横っ飛びに捕球してぎりぎりのタイミングでアウトにしたとき、打者が外角の球をきれいに流し打ったとき、走者が捕手の送球をかいくぐって盗塁に成功したとき、球場内からは「じわ」に近い反応が起こるのだ。これ、選手にとってもうれしいのではないか。

 最近のプロ野球では、直前の攻撃で殊勲打を打った選手が守備に就くと、観客席がその選手の名前をコールする。選手は帽子をとってお客に応えるのだが、今はそれができないので大きな拍手を送り、気づいた選手がお辞儀をしている。

 声があげられない分、拍手の仕方で観客席はいろんなメッセージを送り始めているのだ。もちろん「応援がしたくて球場に来ている」人が数多くいることは承知しているが、筆者はこのスタイルの方が野球に集中できるし、いいなあと思っている。

打球音や剛速球の音が聞こえる面白さ

 応援がないので、打球音や捕球音がしっかり聞こえる。オリックスのアダム・ジョーンズのホームランは「パカッ」という大きな乾いた音がしてスタンドに飛び込む。集音マイクが音を拾っているのだろうが、実に爽快な音だ。

 巧打者の流し打ちは「カッ」という鋭く短い音。ソフトバンク千賀滉大やオリックス山本由伸の剛速球は「バチャッ!」とミットそのものをつぶすような音がしている。変化球は「ポスッ」とおとなしい音だ。

 昔、長嶋茂雄が「球音を楽しむ日」を提案したことがあったが、その楽しさを実感できた。

【次ページ】 ファンを含む全員が「野球を守っている」

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