猛牛のささやきBACK NUMBER
NPB初女性スカウトが見る“立ち姿”。
上野由岐子らと掴んだ「金」の知見。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNoriko Yonemushi
posted2020/08/10 09:00
元女子ソフトボール日本代表で、北京五輪では金メダルを獲得。関西を中心に現場を視察し、今秋のドラフト候補をチェックする。
乾自身も耳を疑ったスカウト就任。
オリックスの森川秀樹球団本部長は、スカウトとして乾に白羽の矢を立てた理由をこう語る。
「球団に入ってからずっと子供たちに野球を教える仕事をしてきたので、アマチュアの野球指導者に非常に人脈があります。男性社会ではありますが、ソフトボールで金メダルを獲られている人ですから、野球指導者の方に一目置かれる存在ですし、野球を見る目もあるので、スカウトという仕事をやってみたら、いい成果が出るんじゃないかと期待してのことです」
昨年末、牧田勝吾編成部副部長からスカウト就任の打診を受けた乾は、耳を疑った。
「オリックスは何を言い出したんだ? 大丈夫?」
それでも、昨年まで長年スカウトを務めた牧田の言葉に心を動かされた。乾はこう振り返る。
「幸いにもオリンピックで金メダルを獲らせてもらった経験があるので、牧田さんには『世界でいろいろなことを感じた目を生かしてほしい』と。私には野球界の常識みたいなものはわからないんですが、それを知らないからこそ見えるものだったり、他の人とまったく違う視点から、選手を見てもらえたらありがたい、ということを言ってくださったので、やってみたら面白いのかな、というふうに感じましたね」
2020年1月、日本球界初の女性アマチュアスカウトが誕生した。
球児を見る視線がまったく違う。
年明けから早速、社会人や大学、高校への挨拶回りが始まった。新型コロナウイルス感染拡大の影響で4月からはスカウト活動がストップしたが、6月から徐々に動き出し、高校の独自大会が行われている現在は、担当する関西2府4県と静岡県の球場に足を運ぶ毎日だ。
実は昨年の夏も、乾は大阪市舞洲にある大阪シティ信用金庫スタジアムで大阪大会を見守っていた。この球場はオリックスが管理しており、そこで行われる大会への対応も乾の仕事の一環だった。ただ、その時と今では球児を見る視線がまったく違う。
「去年は、『暑い中、高校生よー頑張ってるわー』って、近所のおばちゃんみたいな感覚で見ていましたから」と笑う。