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NPB初女性スカウトが見る“立ち姿”。
上野由岐子らと掴んだ「金」の知見。 

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米虫紀子

米虫紀子Noriko Yonemushi

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photograph byNoriko Yonemushi

posted2020/08/10 09:00

NPB初女性スカウトが見る“立ち姿”。上野由岐子らと掴んだ「金」の知見。<Number Web> photograph by Noriko Yonemushi

元女子ソフトボール日本代表で、北京五輪では金メダルを獲得。関西を中心に現場を視察し、今秋のドラフト候補をチェックする。

“高校生たちの本気”で戻った感覚。

 今はスカウトとして、プロで活躍できる選手かどうかを見極めなければならない。

 当初は、「引退して10年経つので、現役の頃に自分が持っていた、キャッチャーとして人を見たり感じる力というか、考える脳が、果たして機能するのか。感覚が戻るんだろうか」という不安があった。

 だが、独自大会で選手たちの真剣勝負を見つめるうちに、徐々に感覚が戻ってきていると言う。

「練習試合とはまた違った、それぞれが強い思いを持って臨んでいる高校生たちの本気の試合を見せてもらうことで、『あ、こういうところを見てたな』とか、『そういえば自分はこんなことしてたな』と気付くところがありますね」

やりづらさはないが、難しさはある。

 NPBの球団スカウトは、ほとんどが元プロ選手の男社会。だが、乾はやりづらさを感じることはないと言う。

「基本的に、元プロ野球選手でスカウトをされる方々というのは、すごく優しい方が多いのかなという印象です。私が、『これってどういうことなんですかね?』と聞くと、皆さん本当に親切に教えてくださいます。『大変やと思うけど頑張ってなー』とか、『球団は違うけど、応援してるから』と言ってくださったり、こそっと『こういうとこ見といたらいいよ』と教えてくださったり。周りの方に恵まれて、本当にありがたいなと思っています」

 乾自身の明るく親しみやすい性格も、敷居を取り払うのに一役買っていそうだ。

 一方で、難しさを感じるのは、スカウトが選手と直接コミュニケーションを取れない点だ。

「人間性というか性格を、その選手としゃべらずに見抜くのは大変ですね。直接話すことができれば、受け答えの中で『こういう子かな』という判断はできると思うんですが。技術は、見ていればある程度、いいものを持っているなとわかるんですけど、内面的な本質を見極めるのはすごく難しいなと感じています。

 技術がいいからプロには入れたけど、でも人としてどうなの? という選手では、伸びるものも伸びない。プロになったからには、やっぱりファンから応援される選手になってもらいたいし、チームメイトから慕われる、人間性も素晴らしい選手にきてほしいなと思うので、そういうところもしっかり見極める力や目を、自分の中に築いていけたらなと思っています」

【次ページ】 乾が見る“立ち姿”とは?

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