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長岡望悠「また違う自分で成長を」。
2度の大怪我、バレー人生の再出発。
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph bySAGA Hisamitsu springs
posted2020/07/25 11:30
2018年以来、日本代表に選出されている長岡望悠。代表でのプレーにも期待が膨らむ。
「自分だけ別の次元にいる感覚」
受傷から2週間経たぬうちに帰国し、手術を敢行した。膝だけでなく、心の傷も癒そうと、久光製薬の萱嶋章部長(現久光スプリングスGM)を始め、元チームメイトや家族、友人、さまざまな人が気遣い、心配してくれた。だが、普段なら当たり前に言える「ありがとう」の言葉すら出てこない。
「冷静に考えることが難しかったし、無気力だからどんな言葉も頭に入らない。自分だけ全く別の次元にいるような感覚でした」
それでも手術を受けた翌日から、復帰に向けて進まなければならない。
もちろんこの場合の“復帰”は競技復帰ではなく、日常生活への復帰だ。脚を上げたり、膝の周辺に刺激を加えたり、なすがままでも1つずつ、次へ向けた作業が始まる。
同じケガとはいえ、1度目と2度目は症状も違い、感覚も違う。日々の状態によって元気が出たり、落ち込んだり。感情も日ごとに変化する中、ようやく少し前を向くことができたのは、退院間もない昨年2月の終盤だった。
心の底から「コートに戻るために」と強い意志が持てたわけではない。だが、少しずつでも進まなければ、何も変わらない。通院に加え、メディカル面は若宮啓司トレーナー、ストレングス面は以前、久光製薬でもストレングスコーチを務める油谷浩之トレーナーと共に、二人三脚ならぬ、三人四脚でのリハビリがスタートした。
油谷トレーナーが促した覚悟。
とはいえ、競技復帰に向けて積極的に取り組めていたか、と言えばそうではない。
何しろ、バレーボールだけでなくラグビーやアメリカンフットボールなど、多くのアスリートのリハビリも担ってきた油谷氏も「これほど短期間で2度、同じ箇所を受傷したケースは初めてだった」と言うように、1度ならず2度、同じか、それ以上のリハビリに身体は、心は耐えられるのか。不安を感じるのも、気力を持てないのも当たり前。そう言いながらも、油谷氏は長岡に“覚悟”を促した。
「最初は本格的に復帰を目指すというよりも、“楽しくバレーができるようにゆっくりやります”ぐらいの感じやったと思うんです。だから、『やるんやったらとことんやったら?』と。大きなショックを受けている選手に何てことを言うんだ、と思われるかもしれません。でも、アスリートである時間には限りがある。それならば、これからのために“やる”と決めて取り組む。僕も持っている知識や経験、全部注ぐし、もしも復帰できなかったとしたら“油谷のトレーニングが悪かったからや”と言われて当然だ、という気持ちで、僕自身も覚悟を決めた。2度目のケガは、それぐらい大きなものでした」