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Jリーグで愛された安英学は今……。
ルーツに恩返しを続ける第二の人生。
text by
キム・ミョンウKim Myung Wook
photograph byYuki Suenaga
posted2019/10/07 11:40
現在は子どもから大学生まですべての年代で指導にあたっているという安英学。
貸してもらったものを返していく。
安英学にはその過程で得た真理のようなものがある。おもむろにこんなことを語りだした。
「僕がサッカー選手として成功できたのは多くの応援があったからです。これからは僕がお返しする番。とくに朝鮮学校の子どもたちは僕にとって本当に大切な存在。彼らはみんな僕の弟妹みたいなものですし、我が子のようなもの。僕も在日同胞の方々から愛情を注がれて育ってきました。一言で言えば家族のような存在です」
マイノリティーの在日コリアンには、時に風当たりが強いことも安英学は知っている。だから守ってやらなければならない。
その逆もしかりで、Jリーグでは多くの日本人サポーターに支えられ、愛されてきたこともまた事実である。
彼が日本のサポーターからどれだけ愛されていたのかが知れる象徴的な出来事がある。2017年4月30日、アルビレックス新潟のホーム、ビッグスワンで試合前に行われた引退セレモニー。相手は柏レイソル。「思い入れがある」と語る両チームのサポーターの前でスパイクを脱ぐ報告をしたのだ。
涙が止まらなかったセレモニー。
在籍期間は新潟が3年、柏が2年とそう長くはない。それゆえ「大事なリーグ戦の前に時間を取ってもらうのが申し訳ない」と一度はセレモニーの打診を断った。ただ、一方で「プロデビューした新潟で引退したい」という気持ちは強く、新潟からの熱烈なオファーを受け取った。
背番号「17」の新潟のユニフォームを着て場内を歩いた。スタンドに埋まった新潟サポーターから「イギョラ(頑張れ)、アン・ヨンハ!」のチャントがこだました。柏のサポーターからも、当時のチャントがスタジアムに響き渡った。そしてサポーターの前でそれぞれのユニホームに着替える粋な計らい。自分のためにこれだけの日本人が声援を送ってくれる。感動的な光景に歩みを進める安英学の目からは涙が止まらなかった。
安英学は自分のこれまでの人生を振り返る時、「多くの日本の方々に支えられてきました」と必ず口にする。だからこそ、日本のサッカー発展のため、かつて所属したJクラブにいつか恩返ししたいという思いは今もなお持ち続けている。
ただ、それでも彼に与えられた“使命”があるとすれば、それは同じルーツを持つ在日サッカー少年・少女たちに夢を与えること、そして自分を支え続けてくれた母校への還元が第一なのだろう。