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Jリーグで愛された安英学は今……。
ルーツに恩返しを続ける第二の人生。
posted2019/10/07 11:40
text by
キム・ミョンウKim Myung Wook
photograph by
Yuki Suenaga
厳しい暑さが残る9月初旬――。
安英学は、東京の駒沢オリンピック公園内にある競技場にいた。在日朝鮮人3世で、北朝鮮代表として2010年南アフリカ・ワールドカップにも出場している元Jリーガーである。
「こうして後輩たちが一生懸命にサッカーする姿を見るのは自分にとって何よりの楽しみですよ」
グラウンドの看板には「在日朝鮮学生中央体育大会」のハングルの文字。そして旗を掲げるポールには北朝鮮の国旗がなびく。そこは年に一度、各地にある朝鮮学校サッカー部(中学生)の頂点を決める全国大会だった。1996年以降、朝鮮学校は中体連、高体連の主催する全国大会を目指せるようになったが、現在まで続く同大会は全国の在日サッカー少年・少女たちにとっては一大イベントである。
そんな小さな大会に安英学は毎年、駆けつけている。
「あ! ヨンハ選手だ!」
試合を終えてスタジアムを出ると、どこからともなく「あ! ヨンハ(英学)ソンス(選手)だ!」と聞こえてきた。20人くらいのサッカー少年たちがそう声を張り上げ、安英学の下に駆け寄っていく。
2002年にJリーグのアルビレックス新潟でプロデビューを果たした安英学は、その後、名古屋グランパス、大宮アルディージャ、柏レイソル、横浜FCでプレー。当時現役の北朝鮮代表ながらも、Kリーグの釜山アイパーク、水原三星ブルーウィングスにも在籍。そしてW杯出場という夢もかなえた彼に、子どもたちはヒーローを見るかのようなキラキラした目を向けていた。
「もうほとんどの子どもたちのことを知っているんですよ。全国の朝鮮学校に講演にいったり、一緒にサッカーしたりしていますから」
2017年に現役引退。現在は「育成の現場」でいくつもの顔を持っているという安英学は今、どこに向かおうとしているのか――。