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Jリーグで愛された安英学は今……。
ルーツに恩返しを続ける第二の人生。
text by
キム・ミョンウKim Myung Wook
photograph byYuki Suenaga
posted2019/10/07 11:40
現在は子どもから大学生まですべての年代で指導にあたっているという安英学。
サッカースクールの運営。
「今はジュニア(小学生)の子どもたちを対象にした『ジュニスターサッカースクール』を2つ運営しています。場所は東京朝鮮第三初級学校と横浜朝鮮初級学校のグラウンドを借りて行っています。2013年、無所属で欧州クラブのトライアウトを受けていた時、日本でトレーニングを続けながらサッカースクールを立ち上げました。元々、子どもが好きなので何か自分が貢献できることがないかと考えていた時にサッカースクールがいいと思いました」
安英学は同スクールの“代表”になるわけだが、指導をコーチだけに任せることはなく、実際に自分が子どもたちとボールを蹴ることを信条としている。スクールの全国展開もまったく考えていない。
「自分が見るとなると、2つくらいがちょうどいいと思っています。目が行き届かなくなってしまうので」
子どもたちのサッカーの話になると表情が生き生きする。コミュニケーションを取ることを大切にする“彼らしさ”が言葉からにじみ出ていた。
朝鮮学校の部活環境を改善。
さらに、安英学の活動はそれだけに留まらない。昨年から横浜の朝鮮学校で指導も始めた。肩書きは“スーパーバイザー”。同じ敷地内にある初級部、中級部、高級部のサッカー部が本気でサッカーに取り組むためのプロジェクトを立ち上げて、強化サポートに携わっている。
「まず、大きな夢を掲げました。1つは全国高校サッカー選手権大会出場を目指すこと。もう1つは、神奈川朝鮮学校卒業生の中でプロになった選手がいないので、その第1号を輩出すること。夢に向かってみんなで心を1つにするという意味で、初・中・高と同じデザインのユニフォームを新調し、左胸には新たに作成したエンブレムを入れました」
朝鮮学校が選手権出場やプロを輩出するという目標を実現するのは決して簡単なことではない。現に高級部サッカー部員は12人しかおらず、そのうちGKが2人。ケガ人が出れば、少ない人数での戦いを強いられる。
だが、プロで様々なことを見て経験してきた安英学には、幸いにもサッカー関係者との太い人脈と知識があった。ツテを辿り、声を掛けると、周囲の人々は「ヨンハさんのためなら」と協力を惜しまなかった。
まず2人のフィジカルコーチに協力をお願いした。1人は同じ朝鮮学校の卒業生の元Kリーガー。もう1人は中島翔哉(ポルト)を指導した経験もある人物だ。
「僕の後輩にあたるコーチにはサッカーに必要な筋力トレーニングの指導をお願いしました。月に1度来てもらい、指導を受けたメニューを週に1度しっかり行っています。もう1人のコーチからは体の使い方や正しい姿勢の指導を受けています。朝鮮学校の子どもたちは、勢いがあってパワフルなところもあるのですが、細かい動作では雑な部分があるので、ダッシュやジャンプ、ターンなどを画像でチェックして改善していくことを定期的に行っています」
そして以前からGKのレベル向上の必要性を感じていた安英学は、湘南ベルマーレなどでプレーしたGK金永基(キム・ヨンギ、現在は引退)に声をかけた。今年4月には新たにキーパーコーチのライセンスを持つ韓国人を招聘している。