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“約束を守らない”原辰徳監督。
それでも人が付き、勝負強い理由とは。
posted2019/05/02 10:00
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
Kyodo News
巨人の原辰徳監督は“約束を守らない”監督である。
思い出すのは2009年の第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でのイチローとの“約束”だ。
当時のイチローはメジャー9年目を迎える脂の乗り切った時期で、このときは8年連続200安打のメジャー記録を引っさげての代表入りだった。
当然、原監督もイチローを軸に据えたチーム編成を考えていた。そこでイチローが合流してくると、早速、本人を呼んである“約束”を交わしていたのである。
それは大会を通して「3番、ライト」で起用するということだった。
そのことを伝えて「どうだ?」と聞くと、イチローも納得の表情で「分かりました」と答えた。そこをベースに「イチローを生かせる次の打者」として稲葉篤紀外野手を4番に据えるオーダーが決まっていったわけである。
ところが理想と現実は違った。
「イチローを使わずして敗れたときには悔いが残る」
宮崎でのキャンプからイチローの状態が全く上がらず、直前の強化試合でも3試合を消化して13打数3安打の打率2割3分1厘。放った3安打はいずれも内野安打で、外野に打球が飛んだのは中飛1本というスランプに陥ってしまっていたのである。
チームの柱として3番に据えたイチローが完全なブレーキとなってしまった。
それで原監督は、イチローとの“約束”を破る決断をする。
大会直前、最後の強化試合でイチローの打順を1番に変更したのだ。
「監督にお任せします」
3試合目の試合後にイチローを監督室に呼んで打順変更を伝えると、イチローはこう答えて部屋を出ていった。
結果的にこの打順変更後も、イチローの状態はなかなか上がらずに苦しいシリーズだった。あまりの不振ぶりに周囲からは「オーダーから外すべき」という声も飛んだが、原監督は「イチローを使い続けて負けても悔いはないが、イチローを使わずして敗れたときには悔いが残る」と最後までオーダーの最初に名前を書き続けた。
そうしてその覚悟が最後の最後に結実したのが、連覇を決めた韓国との決勝戦、延長10回の決勝タイムリーだったわけである。