マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
西村健太朗、15年間おつかれさま。
ガンコで一途な高3春の思い出。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNanae Suzuki
posted2018/10/23 08:00
西村健太朗は巨人で一途な15年間を過ごした。そのキャリアは、高校生の時の姿の延長線上にあった。
「構えた所より外ならOKだからな!」
ゆったりとしたボディーアクション。踏み込んだ一瞬、前の肩がこっちをにらむ。こういう投手は、ボールが暴れない。
読みどおりだ。アウトローのきびしいコースに、西村健太朗の140キロ前半が3球、4球と続く。
ちょっと引っかけた。速球が外に外れる。
「構えた所より外ならOKだからな、健太朗!」
マウンドの後ろから、“指導”が飛ぶ。
広陵高OB・田村忠義氏である。社会人野球・日本鋼管福山の絶対的エースとして長く君臨し、1974年には太平洋(現・西武)からドラフト1位指名、翌年にはヤクルトから2位で指名されて執拗に入団依頼されながら固辞。社会人野球のレジェンドとしての野球生活を全うした硬骨の野球人である。
サイドハンドからのシュートとスライダーで両サイドを広く揺さぶる絶妙のコントロールで、社会人野球の一時代を築いた名物選手だ。
外れるにも“外れ方”がある。
「ストライク投げるのもコントロールだけど、健太朗ぐらいの高い能力持っていたら、構えた所に8割投げられるレベルのコントロールを求めたいですよ。いずれ、プロに行く子ですから」
物腰は柔らかくても、彼のピッチングを見つめる視線はドキッとするほど鋭い。
「高校生のオーバーハンドで、こんなに低めに集められる子なんて、健太朗ぐらいでしょ。だからこいつには、コントロールとはなんぞや……そこまでを教えたい。構えた所から外れることもある。外れるにも“外れ方”ってものがあって、それを知っておけば、コントロールで自分をがんじがらめにしてしまうこともありませんからね」
いいこと教わってるんだな……と、ちょっとうらやましくなった。
彼だけが教わるんじゃもったいない。広めたいと思って、あれ以来、取材に伺う先々で「構えた所より外はOK!」、何度叫んだことか。