フランス・フットボール通信BACK NUMBER
元浦和のバジール・ボリの栄光。
「マルセイユは街そのものがクラブ」
text by
トマ・シモンThomas Simon
photograph byPatrick Gherdoussi/L'Equipe
posted2018/06/05 11:00
今でも25年前の栄光は色あせない……マルセイユの街では、バジール・ボリはずっとスター選手である。
ハーフタイムでは誰も会話をしなかった。
――15分過ぎに、ベンチに交代すべきかどうか確認していますね。
「不安だったし、ベンチにピッチから出るサインを送った。ところがやって来たマッサーは、タピが僕の退場を望んでいないと伝えた。チームメイトたちも『交代するな』という。ルディ・フェラーが寄って来て、『ステイ、ステイ、ユー・ステイ』と何度も繰り返した。それで僕もプレーし続ける気になった」
――そしてピッチに残り、アベディ・ペレの放ったコーナーキックからあの決勝点が生まれました。ゴールが決まった後で、彼に何と言いましたか?
「『見たか。言われたようにファーに行くと見せてニアに走った。バッチリ決めたぞ!』と言ったんだ。彼は怒り顔で興奮していた。その表情をよく覚えているよ」
――ハーフタイムの雰囲気はどうでしたか?
「淡々としていたね。監督以外は誰も喋らなかった。彼は後半も前半と同じようにプレーすることを求めた。まだ45分残っているのだから、自分を見失ってチャンスを逃してはならないと」
――キャプテンのデシャンは何も言わなかったのでしょうか?
「まったく話さなかった。実際、彼がキャプテンだったけど、他にもルディ・フェラーがいて僕がいてアベディ(・ペレ)がいて……。本物のリーダーがそれぞれのセクションでキャプテンの役割を担っていたんだ」
敵クラブのオーナー、ベルルスコーニまで祝福を。
――試合後のロッカールームはどうでしたか?
「狂喜乱舞だった。誰もが中になだれ込んで来て、ベルルスコーニ(当時ACミラン会長)まで握手して祝福してくれたしプラティニもいた。本当に忘れられない瞬間だった。
ところが……そのときはまだ、マルセイユで何が起こっているか誰も気づいていなかったんだ(OMが仕組んだ八百長の発覚。後にOMはCL優勝、リーグ優勝の両タイトルに関わる権利をはく奪された)。
25年たった今でも思い出すと心が痛むよ。すでに何万回も話したけど、本当に複雑な心境だ」