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ジダンの微笑み方がちょっと怖い。
悪魔のように、時に子供のように。 

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吉田治良

吉田治良Jiro Yoshida

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photograph byGetty Images

posted2018/05/31 10:45

ジダンの微笑み方がちょっと怖い。悪魔のように、時に子供のように。<Number Web> photograph by Getty Images

ジダンの感情を読み取ることは極めて難しい。何か別の次元の事を考えているようにすら見える。

「私がグラスゴーで決めたゴールより素晴らしい」

 ただその時、すでにジダンの意識は喧騒の外にあった。例によってポケットに手を突っ込んだまま微動だにせず同点ゴールを見届けると、すぐさまベンチに向かってギャレス・ベイルのアップを指示する。

 失点から6分後の61分にベイルを投入、そのベイルがチャンピオンズリーグ史に残る圧巻のバイシクルシュートを決めるのは、それからわずか3分後だ。

 シーズン終盤に調子を上げ、このファイナルでもスタメンを予想する声が多かったベイルだが、結局はベンチ。今オフの退団も噂される彼が、モチベーションを失っていたとしても不思議はない。けれど、ジダンはここでも信じていたはずだ。

「一流は、大舞台でこそ一流の仕事をやってのける」と。

 試合後にジダンが、「私がグラスゴーで決めたゴール(2001-02シーズンのCLファイナル)よりも素晴らしい」と絶賛した一撃。さすがに興奮を抑えきれなかったのか、指揮官はその瞬間、つるりと頭をひと撫ですると、手首を激しく振り回しながら感情を吐き出している。

 結局、83分にもベイルが豪快な左足のブレ球ミドルでカリウスのキャッチミスを誘ってダメ押しの3点目を奪い、マドリーが3-1で勝利。史上初のCL3連覇の偉業を成し遂げた。

表彰式では、子供のように無邪気な笑顔。

 リーガ・エスパニョーラで低調なシーズンを過ごし、一時は解任説も流れたジダンだが、これでカップ戦ファイナルは'16年1月の就任から9連勝と、一発勝負では相変わらずの強さを見せつけている。近年はこれといった補強もないことを踏まえれば、その価値はさらに高まるはずだ。

 サラーとカルバハル、さらに試合後にはふたつのミスを犯したGKカリウスの涙があった。最後は選手層の薄さに泣いたとはいえ、クロップ監督が見せた戦う姿勢が、リバプールの選手とサポーターを鼓舞し続けたのは間違いない。

 そして、あのベイルの芸術的なゴールは、未来永劫に語り継がれるだろう。

 様々な出来事が、90分間に凝縮された今回のCLファイナル。

 だが、個人的にもっとも印象に残ったのは、やはりジダンの微笑みだった。

 表彰式でも片手をズボンに突っ込んだままだったとはいえ、その表情に浮かんでいたのは、子供のように無邪気な笑顔。試合中に何度となく見せた、あの不敵で、悪魔のような微笑とは明らかに違っていた。

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