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ジダンの微笑み方がちょっと怖い。
悪魔のように、時に子供のように。
posted2018/05/31 10:45
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph by
Getty Images
アントニオ猪木とジャイアント馬場が、タッチライン際に並んで立っているようだった。
動と静、対照的な2人。
ジャージ姿でワンプレーごとに声を上げ、闘魂を剥き出しにしていたのがリバプールのユルゲン・クロップ監督なら、黒いスーツに身を包み、両手をズボンのポケットに突っ込んだまま泰然自若としていたのがレアル・マドリーのジネディーヌ・ジダン監督だった。
2017-18シーズンのチャンピオンズリーグ決勝。下馬評がわずかに高かったのは前人未到の3連覇に挑むマドリーで、あの“イスタンブールの奇跡”以来、13年ぶりの戴冠を目指すリバプールは、勢いこそあれ、とりわけ経験値に乏しいとの見方がもっぱらだった。
「10回戦えば、おそらく9回は負ける相手だが、戦術を駆使してなんとか我々のレベルにまで引きずり下ろしたい」
彼我の差を認めながら、いや認めているからこそ、クロップは一撃必殺に懸けた。指揮官の気合いが乗り移ったかのようなチームは、立ち上がりから強烈なプレスで王者の首を刈りに行く。
ジダンの、悪魔のような微笑。
モハメド・サラー、ロベルト・フィルミーノ、サディオ・マネの強力3トップを先陣とするリバプールの鋭い出足に、序盤のマドリーはビルドアップもままならない。
名手トニ・クロースが普段の彼からは考えられないパスミスを犯せば、右SBのダニエル・カルバハルの蹴ったバックパスは、誰にも触れずに直接ゴールラインを割ってしまう。
速いテンポに完全に飲み込まれたマドリーは、23分に左サイドを崩されると、中央からフィルミーノ、さらに高い位置を取っていた右SBトレント・アレクサンダー・アーノルドのシュートを立て続けに浴びる。GKケイロル・ナバスの好守もあって辛くもピンチをしのいだが、その青息吐息は誰の目にも明らかだった。
そう、ただ1人を除いては──。
リバプールの決定機から2分後、マルセロが相手のプレスに追い込まれた挙句に、ボールをタッチラインの外に出す。この時、すぐそばでジダンが笑っていた。それは、先の展開をすべて見通しているかのような、悪魔のような微笑みだった。