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ジダンの微笑み方がちょっと怖い。
悪魔のように、時に子供のように。
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2018/05/31 10:45
ジダンの感情を読み取ることは極めて難しい。何か別の次元の事を考えているようにすら見える。
おそらくジダンは、一流のプレーヤーを信じている。
ジダンを泰然自若とさせるその源泉は、どこにあるのだろう。
現役時代に踏んだ数々の修羅場と手にしたタイトルの輝きが、大きな支えとなっているのは確かだ。一発勝負のプレッシャーなど嫌というほど味わってきたし、もはやそれを小石ほどの重さにしか感じていない。
ファイナル前日の会見では、茶目っ気たっぷりにこう話している。
「多少のプレッシャーは人生を豊かにしてくれるものさ」
けれど、監督ジダンの一番の強みは、「信じ切れる力」ではないだろうか。
一流のプレーヤーは、舞台が大きくなればなるほど一流の仕事をするものだと、自分自身がそうだったからこそ、選手を信じられるのだ。
名選手、名監督となり得にくいのは、天才が理屈の上に育つものではないからだ。独自の感性や感覚は言葉では伝えられない。無理をして教え込もうとすれば、きっと歪みが生じる。
だから、ジダンは割り切ったのだ。選手を信じようと。その意味で、ワールドクラスが集うマドリーは、彼にとって理想的な職場なのかもしれない。
バイエルン・ミュンヘンとの準決勝・第1レグで、後半から投入したマルコ・アセンシオが勝ち越し点を奪い、第2レグでスタメンに戻したベンゼマが2ゴールを挙げるなど、ジダンの切るカードは的中率が高い。それも、選手を信じ、迷いなくピッチに送り出しているからに違いない。
決勝はむしろリバプールペースだった。
51分、この日攻守に質の高い動きを見せていたベンゼマが、相手GKカリウスのスローに足を出してブロック。これがそのままゴールへと転がり、あっけない形でマドリーが先制する。
信じがたいカリウスのミスだったが、ただし、リバプールの闘魂はこれで挫けなかった。わずか4分後、CKのチャンスにデヤン・ロブレンがS・ラモスとの競り合いに勝つと、そのボールに鋭く反応したマネが右足でコースを変えてゴールネットを揺らしたのだ。
クロップが、右の拳を三度真っすぐに突き出すオーバーアクションで喜びを表現する。しばらく沈黙を強いられていたレッズ・サポーターが俄然活気づき、その大声量に後押しされるようにピッチ上では序盤戦の鬼プレスが息を吹き返し始める。