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ベンゲル、王様になった革命家。
その22年間の絶対王政を検証する。
posted2018/05/30 17:00
![ベンゲル、王様になった革命家。その22年間の絶対王政を検証する。<Number Web> photograph by Jerome Prevost/L'Equipe](https://number.ismcdn.jp/mwimgs/2/c/1500wm/img_2ca78deb2ce5949e3cf5912d9f9d2da5241368.jpg)
新スタジアムにおいて輝ける栄光に包まれていたアーセン・ベンゲル。だがその後、他のビッグクラブとの競合には負け続けた。
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![フィリップ・オクレール](https://number.ismcdn.jp/mwimgs/6/3/-/img_63c0172edf1a3eec5d5017836b5eb9301895.jpg)
フィリップ・オクレールPhilippe Auclair
photograph by
Jerome Prevost/L'Equipe
『フランス・フットボール』誌5月8日発売号は、今季限りでアーセナルを去るアーセン・ベンゲルを特集している。彼のアーセナルでの22年間はいったい何だったのか。
フィリップ・オクレール記者が描き出すのは、賛辞に満ちたオマージュではない。就任当初は斬新なメソッドでプレミアリーグに革命をもたらしたベンゲルが、どうしてこの10年は停滞してしまったのか。その原因を冷静かつ客観的に分析した、極めて論理的な批評である。
ベンゲルを身近で見続けたオクレール記者が、彼の真実に迫る。
監修:田村修一
チェ・ゲバラになるか、シモン・ボリバルになるか?
使命を完遂した革命家にはふたつの道がある。
ひとつは他の国で再び革命をおこすことであり、もうひとつは革命を成し遂げた国で権力の座に就くことである。
つまりチェ・ゲバラになるか、シモン・ボリバルになるのか。
ただし、どの道を選ぶにせよ許されないのは、革命の当事者たちが革命前の旧体制へと回帰していくことである。
アーセン・ベンゲルは果たしてどうだったのか。
彼はゲバラではない。それではボリバルだったのか、それとも……。いったいベンゲルは、アーセナルを指揮した22年の間にどんな失態を犯したといえるのか――。
プレミアリーグ優勝3回、FAカップは歴史上のどの監督も追随を許さない優勝回数(7回)を誇り、ヨーロッパのカップ戦でも2度決勝(CLとUEFAカップ)に進出。そして歴史と伝統を誇るスタジアム(ハイベリー)から、自らの力により得た財力で建設した新スタジアムへの本拠地の移転。ベンゲルはアーセナルに絶大なる功績をもたらした。
ただし、ここ数シーズンというもの、サポーターたちが望んだのは新たな革命だった。
彼らの願いは、新たに登場するはずの“ベンゲル2世”が、王になってしまったアーセン(・ベンゲル)を倒すために立ちあがることだった。
だが、その期待は、ついに実現することはなかった。
4月20日に今季限りの退任を発表して以来、クラブに忠誠を誓い、同時にベンゲルを信奉し続けた彼らの心は、ただ単にベンゲルから離れていき、静かに消え去っていった。