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ジダンの微笑み方がちょっと怖い。
悪魔のように、時に子供のように。
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2018/05/31 10:45
ジダンの感情を読み取ることは極めて難しい。何か別の次元の事を考えているようにすら見える。
カルバハルが負傷しても、ジダンは笑う。
直後、セルヒオ・ラモスに右腕を巻き込まれるようにして倒れ込んだサラーが、不自然な形で腕をついて左肩を負傷し、無念の交代を余儀なくされる。数分後、悲運に見舞われた相手のエースを慰めるようにその顔を覗き込んでいたカルバハルが、無理な態勢からのヒールパスでハムストリングを痛め、同じ運命を辿る。
敵・味方に相次いで訪れたアクシデント。だが、ピッチに幾筋もの悲しみの涙が流れても、変わらずジダンは平常心だった。
36分、カルバハルに代えてナチョをピッチに送り込む時、またしても彼は笑うのだ。スタジアムを覆う重苦しい空気とは、明らかに温度差のある微笑み。この状況で口角を上げられる神経に、ちょっと背筋が寒くなった。
リバプールの方がダメージは大きかった。
もっとも、アクシデントによるダメージは、間違いなくリバプールのほうが大きかった。今シーズンの公式戦で44ゴール・16アシストを記録する絶対的な前線の柱を失い、動揺が走らないはずがない。
アダム・ララーナを3トップの左に入れ、マネをサラーのいた右に回したが、風船がしぼむように序盤の勢いをなくしていく。
オセロがひっくり返ったかのような、分かりやすい形勢逆転。
サラーの脅威から解放されたマルセロが高いポジションを取り、それまで働き場所を求めてピッチを彷徨っていたイスコが頻繁にボールに絡んでいく。
43分にはそのイスコのクロスをクリスティアーノ・ロナウドがドンピシャのヘディングで合わせるが、これは相手GKロリス・カリウスに弾き返され、さらにこぼれ球をネットに押し込んだカリム・ベンゼマはオフサイドだった。
その瞬間の両監督のリアクションが、また対照的だった。地団駄を踏むようにオフサイドをアピールするクロップに対し、ジダンはただ拍手を送るだけ。いったい、どちらの決定機だったか分からない。