フランス・フットボール通信BACK NUMBER
スキャンダルで地に落ちた元“皇帝”。
F・ベッケンバウアーの悲惨な現在。
text by
アレクシス・メヌーゲAlexis Menuge
photograph byAlex Martin/L'Equiope
posted2018/02/27 07:30
世界的な名声を誇ったカイザーの伝説も、今や地に落ちた。ドイツ国内での人気はまったく消えてしまったという。
バイエルンでは彼の名前はタブーである。
ザルツブルクの彼の家からバイエルン・ミュンヘンの本拠地までは車で1時間半の道のりである。
そしてバイエルンでは、ベッケンバウアーの話題は一種のタブーとなっている。
クラブの名誉会長で、かつてのチームメイトでもまた同僚の執行役員でもあったウリ・ヘーネスは、ベッケンバウアーの現状について尋ねられると苛立たしげにこう答えている。
「フランツに構うな! 彼が落ち着けるように、静かに見守るべきだ。この数カ月というもの、フランツに関する話題は本当に酷いものばかりだ。彼は罪を犯したわけじゃない。ドイツサッカーの利益を守るために、いつだって彼は身を粉にして働いてきた。なのに2006年ワールドカップに絡んで、15年も前のことが蒸し返されるとは……」
ベッケンバウアーの代理人はあらゆるインタビューの申し込みを断り、フランクフルトに本拠を置くドイツ協会(DFB)では、ベッケンバウアーの名前が誰かの口から発せられるや否や、その話題はタッチラインの外に蹴りだされるのだった。
最愛の息子、シュテファンの逝去。
ワールドカップスキャンダルと並び、ベッケンバウアーの心に深い傷を与えたのが、3年前の息子シュテファンの逝去だった。
脳腫瘍により46歳で亡くなったシュテファンは、子供たちの中では最も父親と親密で、ベッケンバウアーはシュテファンがザールブリュッケンでプロ選手としてプレーする際にも、また育成コーチとしてバイエルンで働く際にも、息子のために尽力を尽くしたのだった。
「シュテファンが亡くなったのは、フランツには大きな衝撃だった」とマテウスも同意する。
「あれだけの悲劇から立ち直るのは容易なことではないよ」